巴里のノエルは長い。
12月24日に降誕祭前夜を祝う事から始まり、1月6日の公現祭まで続く。
その期間はノエル休暇となり、殆どの者は休みを取る。
勿論、テアトルシャノワールも例外ではなかった。
それぞれが明日からの休暇の予定に思いを馳せ、浮き足だったりどの予定を優先させるか悩んでいたりした。
グラン・マの有能な秘書の一人であるメル・レゾンも例に漏れなかった。
いつものノエル休暇は好きな詩集を読み耽ったり実家に顔を見せに行ったりしているが、今年のノエルは少し違う。
今年のノエルには大神が居るのだ。
どんな風に過ごそう、そんな事を考えるだけで嬉しくなってしまう。
そんな親友の様子に自分も嬉しいのかシーが向かい側の席からメルに話し掛ける。
「ねね、メル」
「何?シー」
「明日はどうするの?」
そう聞かれたところで返答に詰まるメル。
実は大神からは何も言われていないのだ。
「…もしかして、大神さんまだ何も言って来ないの?」
シーの言葉に気まずそうに頷くメル。
「もうっ、信じられないですぅ!女の子の予定がいつでも空いてると思ったら大間違いなんですからね!」
メルの事だというのに自分の事のように怒るシー。
そんなシーを鎮めるようにメルが返す。
「大神さんもこのところノエル休暇前のレビュウの準備に追われてたし、忙しかったのよ」
「それは知ってるけど…」
どうにも納得がいかない表情のシー。
「ほら、それも今日で終わりだし。ね?」
「メルがそう言うんならいいけど…。もし何だったらあたしが聞こうか?」
「だ、大丈夫よ。ありがとう、シー」
シーの申し出を辞退しながら、苦笑するメル。
シーにはそう言ったが、休みはもう明日からなのだ。
大神はどう思っているのだろうか。
自分は独りよがりなのだろうか。
そう考えると不安になってきて、メルは思わず立ち上がった。
「ごめんなさい、シー。少しだけ外しても良い?」
そのメルの言葉にピンと来たのか笑顔で返すシー。
「もちろん」
「ありがとう」
シーに礼を言うとメルは足早に秘書室を出た。
メルが出て行った後に満足そうに頷くシー。
「メルもたまには積極的になっても良いんだよ」
そこに後ろから振ってくる声。
「─本当だね」
いつの間にか空いていたのか支配人室からグラン・マが顔を見せる。
「オーナー!聞いてらしたんですか?」
「まぁね。ムッシュもムッシュだと思うけどね」
「本当ですよね!」
「まぁ、あの子たちらしいかもね」
苦笑してそう言ったグラン・マにシーも同意したのだった─。
とりあえず、秘書室を飛び出してきたものの大神にどう切り出したら良いのか分からずロビーに立ち往生するメル。
不安にはなったが、別に怒っている訳ではない。
問い詰めるのは筋違いな気がする。
シーのようにさり気なく聞ければよいのだが、どうにもそれが苦手だ。
どうしても、少し構えてしまうのだ。
思わずため息を吐いたメルの名を呼ぶ声。
「メルくん!」
「はい?」
半ば反射的に返事をして顔を上げると、其処には大神が立っていた。
「大神さん!良かった、捜していたんです」
「俺もメルくんを捜していたんだよ。それで、秘書室に行ったらシーくんに怒られてしまってね。慌てて君を捜しに来たんだ」
面目なさそうにそう言った大神に苦笑するメル。
「あの、すみません。…シーが」
「ああ、大丈夫だよ。シーくんはメルくんが心配で仕方ないんだね」
「はい。そうみたいです。それで、あの…」
そう切り出したもののどうにも二の句が見つからない。
そんなメルに大神が言った。
「明日の事、だよね?」
「え?あ、はい…」
どうやら大神もその事でメルを捜していたらしい。
安堵の息を漏らし、頷くメル。
「俺としてはこの休みはメルくんと過ごしたいと思ってるんだけど、どうかな?」
照れくさそうにそう言った大神につられるようにメルの頬が上気する。
「…はい。大丈夫です」
「そうか。良かった。安心したよ」
そう笑った大神に笑顔で返すメル。
「─それで、どうしたら良いですか?」
「待ち合わせって事だよね」
「はい」
「ええと…」
そう言って、指で鼻を掻いて言葉を濁す大神。
「大神さん?」
どうにも言いにくそうな大神に首を傾げるメル。
そんなメルの視線を感じながら、少ししてからようやく大神が口を開いた。
「─俺としては明日と言わずに今夜から君と過ごしたいんだけど」
明日が待ち切れないんだ、と苦笑して。
「メルくんはどう思う?」
そう問う大神にメルは一気に赤面した。
「ど、どうって言われましても」
「そうだよね。困るよね」
「はい…」
恥ずかしくて俯いたまま、メルが頷く。
「でも、俺としてはそう思ってるんだ」
なかなかそういう時間が取れないからねと微笑んだ大神に見とれつつもメルが不安を口にする。
「でも、ずっと一緒に居て大神さん退屈になられないですか?」
「退屈?メルくんと一緒に居られるのに?」
「だからです」
「うーん。俺は君と居るのが好きなんだけどなぁ」
そう返した大神にまだ不安を拭いきれないのか苦笑のメル。
そのメルの様子に独り言ちるように大神が呟く。
「…それとも、それは俺が勝手に思ってる事なのか」
「そんな事無いです!私も大神さんと一緒に居られると嬉しいです」
思わぬ大神の言葉にメルが慌てて否定する。
それを待っていたとばかりに大神が微笑んだ。
「良かった」
「…もしかして、私がそう言うの解ってました?」
大神のその反応に『まさか…』とメルが問う。
「勿論、自信満々ではないけど、信じてたよ」
いつもそうなのだ。
気が付けば大神の意図するようになっている気がする。
「…狡いですよ」
思わずそう愚痴るようにメルが言った。
「メルくんもね」
「わ、私のどこが狡いんですか?」
「そういう風にいつまでも解ってないところ」
「え?」
「何回も言うけど、俺はメルくんと過ごしたいんだ。他の誰でもないんだよ。その意味、解ってくれるよね?」
どうにも自分を過小評価しがちなメルに大神が優しく言う。
それで大神の言わんとしているところを理解したのかメルが恥ずかしそうに頷いた。
「…はい」
「ええと、それでさっきの話なんだけど─」
「─楽しみにしてます」
恥ずかしいのか少し目を逸らしながらそう言ったメルを愛おしそうに見つめた後、微笑んで返す大神。
「ありがとう」
その表情に見とれながら、この休みの予定に思いを馳せるメル。
それはとても幸せそうで光に満ちている休日の始まり─。
大神×メルでした。
もうちょっといちゃいちゃさせたかったです(笑
半年振りに書いたらちょっと探ってしまいました(^_^;
と、いうところで。
今年は巴里に始まり、巴里で締めです。
title by: TOYバカップル20題「待ち合わせ?そもそも一緒に家出るし」