「はぁ…」
楽屋に届けられた新しいレビュウ服を前にして、グリシーヌはもう何度目かになるか判らないため息を吐いた。
─今度、シャノワールのショウを観に紐育華撃団…リトルリップシアターの面々が巴里に来るという。
それを前にしてリトルリップシアターのオーナー、サニーサイドよりシャノワールにこの衣装が届けられた。
なんでもリトルリップシアターの衣装担当でもある吉野杏里が自分たちシャノワールのダンサーをイメージして作った衣装で、スターファイブと揃いになっているという。
支配人室に呼ばれて衣装を目にした途端、大半の者は歓声を上げ、シーに至っては羨ましがった。
だが、これが『あんたの分だよ』とグラン・マに差し出されたその衣装を見て、グリシーヌは絶句した。
スカートの丈が花組の誰よりも短かったからだ。
花火が普段着ている服よりも短いのではないだろうか。
実際に着ている自分を想像して、こんなに脚が露出する服はとてもではないが着られないと思った。
そう思ったから、グラン・マに早々にこれは着れないと断った。
だが、グラン・マはグリシーヌがそう言うであろうと解っていたようで、
『アンタの歌と踊りは服が替わっただけでレベルが下がっちまうのかい?』
そのような事はないと言い切ったグリシーヌにその言葉を待っていたと言わんばかりに口角を上げ、
『そうだろう?アンタもプロならこれを着こなしてみせるんだね』
そう言われては、グリシーヌもこの衣装を受け取るしかない。
そして。
今に至るという訳だ。
いくら、ため息を吐いたところでこれを着るという事実は変わらない。
いつもより入り時間を相当早くした今ならば楽屋に自分独りだ。
誰に見られる事もない。
とりあえず袖を通してみて、それからの事を考えれば良い。
グラン・マの指摘通りこのシャノワールのステージに立っている以上、自分はプロなのだ。
これしきの衣装が着られないなどと言ってはリトルリップシアターの面々がどう思うか。
何よりシャノワールのメインダンサーの一翼を担っている者としてグラン・マの面目を潰すに等しい。
グリシーヌは自分にそう言い聞かせながら、いよいよ腹を括って新しいレビュウ服に着替えた。
姿見に映った自分を見つめると、思った以上にスカートの丈が短い。
しかも、タイトに作られている為、体にピッタリとしてそのラインを強調している。
「これを着て踊れと言うのか…?」
無理だと再確認したグリシーヌの背後から思わぬ声。
「…へぇ、なかなか似合ってるじゃないか」
「…ロベリア?!」
よりによって、一番見られたくない相手に見られてしまったと羞恥心から赤面するグリシーヌ。
その表情を嬉しそうに見つめるとロベリアはグリシーヌの真後ろに立った。
「何だよ。独りで楽しむなんて人が悪いじゃないか」
「そなたこそ、部屋に入る時は声ぐらい掛けたらどうだ?!」
「馬鹿か?そんな事しちまったら楽しい事を逃しちまうじゃないか」
「私は楽しくなど無い…!」
ニヤニヤとするロベリアとは対照的に恥ずかしさからどうして良いか分からないグリシーヌ。
「…着替える!」
そう衣装を脱ごうとしたグリシーヌをロベリアの手が止める。
「待てって。もう少しだけ見せろよ」
「嫌だ」
「何でだよ。似合ってるのに」
「嘘を申すな!」
「嘘、ねぇ…」
そう呟き、まじまじとグリシーヌの脚を見つめるロベリア。
「じろじろ見るな!」
ところがグリシーヌのその声が聞こえていないのか何やら独り言ちるロベリア。
「…目がいくよな、やっぱり。…ちっ…」
そう舌打ちをすると、ロベリアは後ろからグリシーヌの脚に手を滑らせた。
「…!」
そのロベリアの行動に侮辱されたと更にグリシーヌの顔が紅くなる。
「何をするっ!?返答次第ではただでは済まぬぞ!?」
「いや、アンタの脚があまりにも綺麗なんでね。思わず、手が延びちまっただけだ」
何故か少し不機嫌そうにロベリアが答えた。
「は?!」
触られた自分ならともかく、何故触ったロベリアの方が虫の居所が悪そうなのか訳が分からない。
「ああ、くそっ…」
どうにも苛立ちを隠せないロベリアにグリシーヌが問う。
「一体、先ほどから何なのだ?!」
”全く訳が分からない”と眉をひそめながらグリシーヌが言った。
ロベリアはそんなグリシーヌを鏡越しに見つめると、その場に跪きグリシーヌの腿に唇を寄せた。
「…他の奴らにみすみすこいつを拝ませてやるなんて腹が立つよ」
「どういう意味だ?」
そう聞き返したグリシーヌにロベリアは立ち上がると、言った。
「…アンタの脚を誰にも見せたくないって言ってるんだ。アタシはそんなに気前が良くないんでね」
そして、再びその脚に指を滑らせるロベリアにグリシーヌの頬が上気する。
「…そ、そう言うが、もう決まった事なのだのだぞ」
ロベリアの発言に少しの嬉しさを滲ませながらグリシーヌが言った。
「だから、腹が立つんだ。何ならアタシの衣装と替えるか…」
真面目な顔でそう言ったロベリアに、思わずフッと笑うグリシーヌ。
「そなたの衣装とて脚が見える事に変わりはないであろう?それにそなたの衣装の方が横の切り込みがあるではないか」
「ちっ。駄目か」
そう悔しがるロベリアに、気が付けばこの衣装に対する抵抗が薄れてきている気がする。
もしかして、ロベリアはそう仕向ける為に来たのではないかと思ってしまう。
「…まぁ、いい。一つだけ言っておく。この脚に触れていいのはアタシだけだからな」
「ああ」
頷くグリシーヌ。
「それに、」
グリシーヌを後ろから抱きしめると片手を腿に這わせ指をスカートの奥へと滑らせるロベリア。
「…この奥に触れていいのもね」
「そ、そのような事をするのはそなただけだ」
腿に触れたロベリアの指の感触に震えを覚えながら頬を上気させるグリシーヌ。
「…分からないぜ?」
そう囁きながら指を更に奥へと滑らせようとするロベリアの手を制しながらグリシーヌが言う。
「…み、皆がもう来る時間ではないか?」
「まだ十分に時間はあるさ。ここで止めるのはなしだぜ?」
「た、頼む。せめて、この衣装を」
「ああ。心配するな、脱がしてやるよ」
「そ、そうではないっ。自分で脱げるっ」
「じゃあ、早く脱げよ」
「は?!全く、そなたは何をしに来たのだ?!」
「そりゃあ、アンタがこの衣装を着るのを眺めに来たに決まってんだろうが」
「私が独りでここに居ると知っておったのか?!」
「当たり前だろ?」
「では、先ほどからのそなたの言葉は」
「途中で惜しくなったのは本当だ」
「まったく、訳が分からぬな…」
「そんな事より、いつまで待たせる気なんだ」
「だから、着替えさせろと申しておるっ」
楽屋には暫く二人の不毛な会話が続いた後、突然に静寂が訪れた。
その静寂が何を意味するか知る者はこの二人を置いて居ない─。
と、いうことで例の新レビュウ服のネタ。
あの衣装を見た瞬間にこんな妄想が( ̄Д ̄
まぁ、あれはロベ専用で触ってくれって言っているようなものです(笑
そして。
エロ展開になるところを台詞連発でごまかしました。
と、いうところで。