*学園サクラです。
大神は織姫のクラスの担任。
どちらかといえば、織姫→大神。
午後の日差しもオレンジ色に変わり始め、差し込む光で昇降口に傘立ての長い影が伸びる。
今日は梅雨の貴重な晴れ間で、雲一つ無い気持ちの良い青空が広がっていた。
陽も傾いて、もう暫くすると空は綺麗なオレンジ色に染まる事だろう。
そんな、放課後。
織姫はそこから職員用玄関をちらちらと気にしながら、ベンチに座って携帯をいじる振りをして誰かを待っていた。
「あー、もう、遅いでーすね!何やってるでーすか!」
もう結構な時間そうしている所為か思わず文句が口を吐いて出る。
…と、言っても。
その待ち侘びている相手と約束をしている訳ではない。
一方的に怒ったところでどうしようもないのだ。
ため息を吐いて、もう一度職員用玄関を見る織姫。
そこでは、今正に待ち侘びていた人物が出て来たところだった。
ここを逃してしまっては、ここまでの時間が全て無駄になってしまう。
慌てて立ち上がって、その人物に見つからないように校門の方に先回りする織姫。
そして、その人物が近付いてきたところで前に出て話し掛ける。
「─ぐ、偶然でーすね。先生も今帰りでーすか」
何回も心の中で唱えて練習したそのフレーズをやや緊張しながら言った。
「─織姫くん。まだ帰ってなかったのかい?」
織姫の登場に少し驚きつつも、すぐに笑顔で返すその人物。
彼─大神一郎は、織姫のクラスの担任をしている。
何事にも熱くなる上にやたらと世話をやきたがるその性格を、”余計なお世話”、”ウザい”と当初は思ったものだったが、ある事件をきっかけにそんなに悪くないと思い始めた。
気が付けば、大神が気になってしまっていた。
こんなに人の良さそうな冴えない男の何処が良いのかと自問自答したりしたが、それでも気持ちは変わらなかった。
大神の事を好きになってみて判ったのは、彼は案外生徒にモテているという事だった。
女子校だということもあると思うが、どうにもそれだけではない気がする。
自分以外にも物好きが多いと判っては、ジッとしている訳にはいかない。
そして、織姫の大神ゲット作戦が始まった。
まずは、一緒に帰って頭一つ抜け出さなければならない。
それに、織姫には今日はどうしても彼と一緒に帰りたい理由があった。
「良かったら、駅まで一緒に帰ってあげてもいいでーすよ?」
言葉ではそう言いながらも、心臓が高鳴ってどうしようもない。
大神からすればたくさんいる生徒の一人に過ぎないし、断られたって仕方ないのだから。
「─ああ、それじゃ駅まで一緒に行こうか」
少し間を置いてから、大神が言って。
「行くでーす!」
思わず、声が弾む織姫。
「…最近はちゃんと授業に出てくれているみたいだな」
歩き出したところで大神が言った。
「べ、別に先生の為じゃないでーす」
「ああ。でも、嬉しくてね」
そう笑う大神。
そんな事で喜んでくれるなら、授業なんて幾らでも出るのにと思う。
「─ああ、そうだ」
急に何かを思い出した様子の大神。
「今日は織姫くんの誕生日なんだってね」
思い掛けない大神の言葉に、驚きを隠せない織姫。
思わず動揺する。
「ど、どうして知ってるでーすかっ?!」
「ああ。紅蘭から聞いたんだ。七夕生まれだから、”織姫”くんなんだね」
ご両親がロマンチストなんだねと優しく笑う大神。
その笑顔に見とれながら、嬉しさを隠すかのように織姫が言う。
「もう、紅蘭はおしゃべりでーすね!」
「はは。紅蘭を怒らないでやってくれるかな。たまたま会話の端に上っただけなんだ」
「言われなくても、分かってまーすっ」
「…誕生日おめでとう。織姫くん」
今日は誕生日だから、どうしても大神と帰りたかった。
それだけで良かったのに、祝いの言葉まで貰えるなんてこれ以上の誕生日はない。
泣きそうになるのを堪えて織姫が応える。
「ありがとうございまーす!!」
「織姫くん、手を出して貰っても良いかな?」
こんな風にと両手をお椀型にしてみせる大神。
「?はい」
言われるままに両手を差し出す織姫。
「じゃあ、これ」
そう織姫の手の上にキャンディーを一掴み乗せると。
「最近、頑張ってる織姫くんに俺からの誕生日プレゼントだ。…皆には秘密な?」
そう悪戯っぽく笑う大神。
「…狡いでーすね、先生は。こんなの好きになっちゃって当然でーす…」
罪作りな大神に聞こえないよう小さく呟いて。
キャンディーを大事そうに鞄に入れる織姫。
「?何だい?」
「何でもないでーす。ありがとでーす」
そう笑って返した後。
取って付けたかのように織姫が言う。
「先生。わたし、急用を思い出しましたー。残念ながら、ここでお別れでーす」
「?あ、ああ。じゃあ、また明日な」
「はい。また、明日ー」
そうひらひらと手を振って、大神に背を向けて歩き出す織姫。
曲がり角まで来たところで立ち止まって、大神の歩いて行った方向を急いで見る。
そして。
大神の後ろ姿を見つめながら、言う。
「先生、わたし本気になっちゃいました。カクゴして下さいね?」
~次号に続かない(笑
~あとがき~
ちょっと遅れましたが、姫誕SSです。
ぱちんこCRサクラ大戦2より念願の学園サクラです。
公式で学園サクラが見られるとは思いませんでした(笑
でも、パチンコ未プレイなのでスティールしか見た事無いんですけど( ̄∇ ̄;
いや、JK織姫なかなかに楽しかったです(*’ ‘*)
題名はAXSさんの曲よりー。