「体温奪うぞ、抱きつくぞ。」ロベグリ(10/04月作成)

『寒空の下で。』

その日の巴里は朝から寒かった。
ただでさえ、冬の日照時間は短いというのにそれに加えて薄暗く、多くの画家が巴里の空をそう描くように空はグレイの雲が支配していた。
そんな冷え切った空気の中、ロベリアはマストの横を吹き抜ける風に身を震わせながら其処に立っていた。
その横に向かい合うように立つグリシーヌは何やら神妙な顔をしている。
「…これで満足か?」
「…まぁね。アンタも隊長も物好きだって分かったよ」
そう鼻で笑うロベリア。
「何だと?」
「だってそうだろ?こんなイカれた場所で決闘なんて、物好きでもなきゃ有り得ない」
「…今すぐ、貴様と決闘しても良いのだぞ」
馬鹿にしたような態度のロベリアに怒りを押し殺すように低い声でグリシーヌが言う。
「…冗談。アタシは遠慮しとくよ」
そう軽く両手を上げるロベリア。
「では、前言を撤回しろ」
「…それにしても、寒いな」
グリシーヌの言葉が聞こえないのか、意図的なのかロベリアは話を逸らす。
「ロベリア、前言を撤回しろと言っている」
そんなロベリアを睨みつけるグリシーヌ。
「寒すぎると思わないか?」
それでも、動じないロベリア。
「ロベリア!」
声を荒げるグリシーヌ。
「ああ。寒い、寒い」
次の瞬間、間合いを一気に詰めて。
咄嗟に後ろに下がったグリシーヌの腕を引き寄せる。
「…この勝負、アタシの勝ちだな」
ニヤと笑って、自分の掌をグリシーヌの頬にピタピタとあてる。
思わず、ビクと反応するグリシーヌ。
「卑怯な…」
敗北感に唇を噛む。
「油断大敵ってやつだろう?」
「このようなものは決闘ではない!」
納得していない様子のグリシーヌが異議を申し立てる。
「ああ。そんなくだらないものじゃないさ」
「貴様…まだ言うのか!?」
「『よーいどん!』で勝負なんてあってたまるかよ?アタシから言わせて貰うと、そんなものは勝負じゃない。ただのゲームさ。アンタだってさっき解っただろう?少しでも油断してる方が負けて、運が悪けりゃ死ぬ。ただそれだけだ。アンタが好きな”しきたり”ってやつは、いざって時にはどうしようも出来ないんだ」
妙に説得力のあるロベリアの言葉に二の句を継げる事も出来ず、臍(ほぞ)を噛む。
「…だから、そんなものに縛られる理由はない」
馬鹿にしていたかと思えば、最後にそう付け加えるロベリア。
「…何?」
「アタシにとってはどうでもいいことばかりだけどさ。アンタにとっては違うらしいからね。その中のどれか一つでも捨てちまえば楽になるさ」
空を見つめながら、ロベリアが言う。
「…そんな事を言う為に此処に案内させたのか?」
ロベリアを見つめて、グリシーヌが問う。
「どうとでも?」
否定も肯定もしないロベリア。
「…まったく。そなたは訳が解らぬな」
呆れたようにそう言うグリシーヌの目に自然と涙が溢れる。
あまりに当たり前の事過ぎて意識はしていなかったが、知らない内にいろいろ気が張っていたのかも知れない。
「おーい。そんな顔見せると体温奪うぞ、抱きつくぞ」
そうグリシーヌの腕を引き寄せ、抱き締めるロベリア。
「もう、そうしているではないか」
「寒さに耐えられなかったからな」
「よく言う…」
小さく笑うとロベリアの肩に顔を埋めて。
グリシーヌが呟くように言う。
「…礼を言う」
「…別に。面倒くさいことは止めちまえってだけだろ」
「ふっ…。簡単に言ってくれる」
「簡単だろ?だって、アンタにはアタシがついてやってんだ」
「本当に何様のつもりなのだ」
「巴里始まって以来の大悪党様に決まってるだろ?」
そう戯けるようにいったロベリアに思わず吹き出すグリシーヌ。
「ふふっ。大した大悪党だな」
「お褒めに預かり光栄ですわぁ」
サフィールの声色でそう返してから。
抱き締めていた腕を解いて、手で口を覆うロベリア。
「ああ、すっかり冷えちまった。アンタの部屋で暖まらせてくれ」
「こう寒くては、仕方あるまい」
苦笑しながら、頷くグリシーヌ。
二人の頭上には雪がちらつき始めていた─。

~あとがき~

甘い台詞のハズがどうしてこうなった?!
およそ、拍手向きじゃない妙にシリアス風の話になってしまいました( ̄∇ ̄;
ロベリアが優しいから、の一言に尽きると思います。

title by: Abandon恋人に囁く10のお題「体温奪うぞ、抱きつくぞ。」

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