『あなたには敵わない』
「…ねぇ、加山くん」
神妙な顔で加山を見つめるかえで。
「何です?勿論、愛してますよ」
そう返事をすると、加山はかえでの頬に手を遣り顔を近付けた。
が、かえでがそんな加山を手で制する。
「別に甘いシチュエーションは期待してませんっ」
「おや、残念です」
口ではそう言うものの、特に残念そうな表情をする事もなく加山が言った。
「そうじゃなくて。あなた怪我をしているでしょう?」
「え?何ですって?俺の事が好きですって?大丈夫ですよ、解ってますから」
ところが、かえでの質問に答えず話を逸らす加山。
「加山くん。はぐらかさないで」
真剣な表情で加山を見つめるかえで。
「…そりゃあ、はぐらかしますよ。大人ですから」
ようやく真剣な顔で加山が答える。
「もし私に心配を掛けたくないというなら、それは違うわ。心配して当然でしょう?」
加山を諭すように言うかえで。
そして、続ける。
「─ところで、私はあなたの事を恋人だと思っているけれど、あなたにとっての私は違う訳ね」
「ちょっと待って下さい。そんな訳ないじゃないですか!」
かえでからの予想外の言葉に慌てて否定する加山。
「だって、そうでしょ?私はあなたを心配しちゃいけないんだったら、そうとしか思えないわ」
─完敗。
加山が両手を上げてから、肩を落とす。
「…すみません。俺が間違ってました」
「解ればよろしい」
「まったく、あなたには敵わないな」
苦笑しながら加山が言った。
「そうよ。私を敵に回すと怖いわよ?」
「はは。肝に銘じます。でも、本当に大したことないんですよ。古傷がちょっと開いただけです」
「それでも、あなたが心配な事には変わりないわ」
「ありがとうございます。─ところで、かえでさん」
「何?」
「”恋人”から甘えついでによろしいですか?」
先ほどまでの謙虚さは何処へやら。
何やら思案顔の加山。
「さっき、お預けを喰った件についてなんですが」
「え?」
「見舞いついでに戴きたいなー、なんて」
「ちょっと、あなた怪我してるんでしょ!?」
ニヤと笑った加山に呆れ顔でかえでが言う。
「ああ。だから、俺は怪我してるんで出来ればあなたの方から欲しいなぁなんて。駄目ですか?」
呆れながらも、諦めたように息を一つ吐くかえで。
「…もう、仕方のない人ね。今日だけよ?」
「はい。分かってます」
要求が通って、満面の笑みの加山。
「本当、あなたには敵わないわ」
背伸びをして、加山の肩に手を置くかえで。
「褒め言葉として受け取っておきます」
かえでに合わせて、少し屈む加山。
─それから、二人の距離が近付いて。
~あとがき~
加かえ的には日常茶飯事な話だと思われます。
かえでさんからのキスが書けたので満足です(笑
”背伸びしてキス”って結構好きシチュなんですよね( ̄ー ̄)ゞ
title by: Abandon恋人に囁く10のお題「別に甘いシチュエーションは期待してないって」