「部屋の残り香が消えてきた」大神×メル(10/05月作成)

『約束-特別な日2-』

『ちょっと帝都に行って来るよ』
帝都、巴里に次ぐ三番目の華撃団として紐育に創設する新しい華撃団に協力する為に帝都でいろいろ準備があるからと、大神がトーキョーに行ってもう半年に なる。
初めの別れ─オーク巨樹との戦いの後に届いた帰還命令の時はもう二度と会えないと思っていたから、諦めがついた。
ところが、半年後に大神は巴里に帰って来て。
それも、自分の為に戻って来てくれたと言う。
これ以上の事はないと思った。
恋人として、改めて大神と過ごす毎日はとても幸せで、その幸せに更に上があることを知った。
だからこそ、大神に会えない事がこんなにも寂しいものだとこの半年で思い知らされた。
もう諦めていた初めの半年とは比べものにならないほど、大神を想う。
帝都に着いてからも大神は毎日のようにキネマトロンに連絡をくれた。
顔を見ながら話が出来るのは嬉しかったが、そんなことよりも直ぐ隣で笑って欲しいと思ってしまう。
優しい大神のことだから、そんな事を言おうものならただひたすらにそばに居ない事を謝ってくれるだろう。
でも、恋人を困らせたい訳ではない。
ましてや任務なのだから、尚更困らせる訳にはいかない。
きっとこの先、何度だって同じような事はあるだろう。
大神はそういう立場の人間なのだから。
その度にこうして待ち続けなければならないのだ。
─いろんな思いを巡らせながら、メルは大神の部屋の窓を開けた。
大神が留守の間、メルはこうやって大神の部屋を訪れては部屋の空気を入れ換えたり掃除をしたりして、いつ大神が戻っても不自由することのないように部屋 を整えていた。
初めの頃はまだ大神の居た形跡があちこちに感じられて良かった。
だが、半年も経つと部屋の残り香さえ消えてしまって部屋の主が誰か判らなくなりそうだ。
窓の外を眺めるメル。
街路樹は鮮やかに緑づいて、街を行く人々の服装もすっかり薄着となっている。
大神が発った時には冷たい風にコートの襟を立たせていたのに、季節はもう初夏の装いだ。
「…いつになったら会えるのかな」
思わず、そう独り言ちてハッと口を押さえる。
それはもうずっと思っている事だったけれど、なるべく口に出さないようにしていた事だった。
口に出してしまったら、負けてしまう気がしたからだ。
メルの頬に一筋の涙が流れる。
ガチャと玄関の開く音。
大方、シーが迎えに来たのだろう。
シーを心配させる訳にはいけない。
手で涙を拭い、顔を上げるメル。
「シー、ごめんなさい。今、行くわ」
笑顔を作って、振り返ると。
「─ただいま」
つい口に出してしまったから、白昼夢でも見てしまったのだろうか。
駆け寄って、触れてしまったら消えてしまいやしないだろうか。
それでも、触れる事が出来るならそんな事に構っていられないのかもしれない。
メルは目の前の─大神に静かに抱きついた。
そんなメルを大神が優しく抱き締める。
ふわと落ちてくる懐かしい匂い、感触、温度。
「…おかえりなさい」
大神の胸に顔を埋めながらメルが言う。
「…待たせてばかりで、ごめん」
メルの頬に残る涙の跡に気付いたのか、指でそっと頬に触れながら大神が言った。
そんな大神に頭を振って、メルが微笑む。
「大神さんは戻って来て下さったじゃないですか」
それが何よりも嬉しいんです、そう言ったメルの瞼にキスを落とす大神。
「戻って来たんじゃないよ、メルくん。帰って来たんだ」
「はい…」
「それに約束したじゃないか。君の誕生日までには帰って来るって」
そうカレンダーを見る大神。
「え?」
つられてカレンダーを見るメル。
会えない事ばかり考えて、自分の誕生日などすっかり忘れていた。
「ギリギリだったけどね」
苦笑しながら大神が言って、メルも同じように苦笑する。
「すっかり忘れてました」
「酷いな。俺なんてそれで必死に帰って来たのに」
メルの反応に拗ねたようにそう返した大神に思わず吹き出す。
「ふふっ」
「うん。この笑顔をこんな風に近くで見たかったんだ」
嬉しそうにメルを見つめる大神。
大神の言葉に恥ずかしそうに頬を染めるメル。
「明日はシャノワールでみんなと一緒に君の誕生日を祝って。残りの時間は君を独り占めしても良いかな?」
大神の申し出に、メルは背伸びをすると頷く代わりに大神の頬にキスで返した。
窓の外には青空が広がっていて。
この様子だと明日もきっと晴れるだろう。
しかし、例え雨が降っても嵐でも関係ないのかもしれない。
天気などは些細な問題なのだ。
─何よりも”特別な日”なのだから。

Bon Anniversaire!!

~あとがき~

メル誕2010でした。
巴里ヒロインルートだとVのプロローグ以前って多分こんな感じなのかなと。
先の巴里&帝都ライブで二都を自由に行き来してる印象を受けたので(笑)、巴里ヒロインルートだとそういう総司令の形なんだろうと思いまして。
何か誕生日SSっぽくないけど、ちょっと触れたかった部分でもあり今回書いてみました。
何より、メルは光武F2に乗れないのでリボルバーカノンで追いかけるなんて事が出来ないので!(笑

title by: TOY甘くせつない20題「部屋の残り香が消えてきた」

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