『あなたと一緒に』
『紐育(こちら)に赴任する時に、サニーサイド司令に一つだけワガママを言わせて貰ったんです』
そう切り出した加山の話を、任務に際し滅多に私的要求をつきつけない彼にしては珍しいと思いながら聞いていた。
『風呂だけは日本式を用意して欲しいってお願いしたんですよ』
”どうも、シャワーだけってのが苦手で”と苦笑しながら言った加山をむしろ可愛らしいとさえ思った。
『それが、流石サニーサイド司令と言うべきか。湯船に檜を使ってありましてね』
”本当に薫りが良くて、ここが紐育だって事を忘れそうになりますよ”と、嬉しそうな顔でそう言った加山に見とれさえした。
『かえでさんも入っていって下さいよ』
”本当に良いですから!”と強く勧めるから、風呂を借りる事にしたのに。
「いやぁ!良いお湯ですねぇ!」
背中越しに聞こえてくる上機嫌な加山の声。
勧められるままに風呂に入って、湯船に浸かりながら仄かに漂ってくる檜の良い薫りに癒され、加山の言う事も頷けると湯を堪能していた所に。
『湯加減はいかがですか?』
唐突にそう声がしたかと思ったら、風呂の戸が開いて。
それだけならまだしも。
あろうことか加山は全裸で手ぬぐいを持って中に入って来て、”失礼しますね”と一言添えて掛け湯をすると、自分も湯船に浸かったのだ。
ザーーッと湯船から溢れる湯。
咄嗟に手ぬぐいで肌を隠し、背を向けるかえで。
「ねぇ、加山くん」
言わば、騙し討ちに遭ったかえでの口調は少し強い。
「はい」
全然、動じない素振りで加山が返事をする。
「あなた、最初からそのつもりだったのね?」
「はい」
あっさりと認める加山。
「だって、帝劇じゃこんな風に一緒に入れないじゃないですか」
「帝劇じゃなくても一緒には入りませんっ」
加山の発言を一蹴するかえで。
幾度となく肌を重ねていても、これは別の話なんじゃないかと思う。
何よりも妙に恥ずかしいのは何故なのだろう。
「おや。それは残念です」
そう言いながら、かえでの両肩を引き寄せるように後ろから抱き締める加山。
加山の胸板が背中にピッタリくっついて、胸の動悸が激しくなる。
これだけくっついていたら、加山にも聞こえているのではないかと思う。
羞恥心からかえでの頬が上気する。
「流石に二人じゃ狭いですねぇ」
そんなかえでの思いを知ってか知らずか、妙に嬉しそうに加山が言った。
「当たり前でしょ?」
一人で入るための湯船の大きさなんだから、と呆れ顔で非難するかえで。
「でも、二人で入るには良い狭さだと思いませんか?」
こんな風にあなたとくっつけますし、と言い放つ加山。
加山の息がうなじに掛かる。
抱き締められている腕を意識しない方が無理だ。
湯で温まってきてもいるかえでの躰は上気して紅く染まり始める。
「─のぼせてしまいそうだから、出るわ」
そう腕を解こうとするかえで。
「確かに、少し熱いですね」
後ろからかえでの首筋に顔を近付け、温度を確かめるように唇を付ける加山。
「!ちょっと」
冗談も大概になさい、とかえでは眉をしかめる。
「結構、本気なんですけどね」
残念そうに腕を解いた後、加山が言った。
「でも、あなたと風呂に入れたので幸せですよ」
恥ずかしくてとても後ろを向けそうにないが、加山はきっと満面の笑みに違いない。
そんな想像が容易いほど、声に表情が顕れている。
「だったら─」
─思わず。
「初めからそう言えば良かったのよ。それなら、私だって…」
そう呟いてしまう。
何を言ってるんだろうと後から恥ずかしさが込み上げてきて、ますます熱くなる。
「本当にそうですね」
そんなかえでを特に追及する事もなく、加山が普通に返す。
そういうさり気なさが心地よくて、どうにも敵わないと思う。
「では、次はそうすることにします」
かえでの背中にキスを落とした後、立ち上がろうとした加山の腕を、
「…待って」
気が付けば掴んでいた。
そして、言う。
「あなたの所為でのぼせてしまって、一人では立ち上がれそうにないの。だから─」
顔を真っ赤にして、加山を見上げるかえで。
「抱き上げて貰っても良い?」
思い掛けないかえでのその頼み事に笑顔で応える加山。
「おやすい御用です」
加山の首に腕を掛けるかえで。
かえでを軽々と抱き上げる加山。
目が合って。
やがて─。
~あとがき~
ただいちゃいちゃ第4弾。加山×かえででした。
風呂エロじゃないです肌色率が高いだけですと(ry
エロ部分はそのうち(ぇ
このお題を見た時から、これはぜひ書かねばと思いました(笑
狭いのをいいことにくっつくと良いよ。
帝劇とかLLTのお風呂は大きいからね!
まぁ、あれはあれで何だかんだ理由をつけていちゃいちゃするんでしょうが。
シャノワールはとりあえずシャワーブースの2人使用が基本ですね(笑
title by: TOY同棲20題(その2)「二人でお風呂はさすがに狭い」