「時々、本当に恋人なのか判らない」サニラチェ(10/04月作成)

『秘密主義もほどほどに』

紐育華撃団総司令、マイケル・サニーサイドが秘密主義なのは周知の事実だ。
加えて、『人生はサプライズ!』がモットーの彼であるから何事に於いても全てを晒す事は稀だった。
だが、彼の恋人ともなればその秘密主義に何か釈然としないことがあるのも事実で、その彼の恋人であるラチェット・アルタイルも例に漏れなかった。
公事であれば、彼の立場上秘密にするのは仕方のない事だとして。
私事までも、それに従わなくても良いのではないかとラチェットは思う。
それでも、出逢った頃に比べたら(お互いに)かなり奥まで入り込めているのだとは自覚していた。
しかし、それも”恋人”であるサニーサイドとの隔たりを解いていっているラチェットへのサニーサイドなりの返杯なのかもしれない。
交わし方の巧いサニーサイドに気が付けば肩透かしを喰らっているラチェット。
あくまでも秘密を持ちたがるサニーサイドに、考えなくても良い事まで考えてしまう。
─彼は本当は私に付き合って恋人の振りをしているのではないか、と。
現にサニーサイドはまた何かラチェットに隠し事をしているようだった。
ここ2、3日の行動が妙に不自然なのだ。
その証拠にいつもは何やかんやと理由を付けてサボっている仕事を文句も言わずに黙々とこなしている。
「ねぇ、サニー。私ってあなたの何?」
気持ち悪いくらい、真面目に仕事に勤しんでいるサニーサイドにラチェットが問う。
ラチェットの唐突なその質問に書類を書く手を止めてサニーサイドが即答する。
「君は僕の恋人でしょ?」
「本当にそう思ってくれてる?」
「君にしては珍しい質問だと思ったら、今度は疑うのかい?」
苦笑しながらサニーサイドが言った。
「だって、あなた直ぐに私に隠し事をするじゃない」
「僕が君に何を隠すって言うんだい?」
「それはあなたが一番よく判ってると思うのだけれど?」
そう問いながらもラチェットの表情は硬い。
そんなラチェットにため息を吐いた後、サニーサイドが宥めるように言う。
「…ラチェット、君は何か勘違いしているようだから言うけど、僕は君に嘘を吐いた事は─」
そこまで言って止まるサニーサイド。
そして、言い直す。
「─あるね。じゃなくて、僕は君を大切に想っているよ」
「じゃあ、何故私にまで隠し事をするの?」
「お互い何か秘密を持っていた方がミステリアスで良いじゃないか。全部を知ってる、なんて面白味が無いと思うよ?」
「詭弁ね。時々、本当に恋人なのか判らないって思うわ」
「ちょっと待ってよ、ラチェット。僕は君を信用していない訳じゃないよ」
そう弁解するサニーサイドをジッと見るラチェット。
その視線だけで何を言いたいのかは明らかだ。
「…全く。君も頑固だねぇ」
諦めたようにクルクルと指で遊ばせていたペンを机の上に置くサニーサイド。
「まぁ、そんなところも気に入っているんだけどね。─君の睨んだ通り、僕は君に隠し事をしている」
「やっぱり、そうなのね」
呆れたように息を一つ吐くラチェット。
「これ以上、君に誤解されたくないから観念する事にするよ」
「それで?」
そのラチェットの催促に机の引き出しから細長い箱を取り出して、ラチェットに差し出す。
「これは?」
「まぁ、開けてみてよ」
思わず受け取って、綺麗に包装されたその箱を開けてみると、シンプルだがセンスの良い銀色のネックレスが収められている。
「出掛けた時に君に似合うと思ってつい買ってしまったんだけど、そんな事を言っても君は受け取ってくれないじゃない?でも、君の誕生日ももう少し先だし、クリスマスまでは更にあるし。ずっと、君に渡す為の口実を考えていたんだ。その事で君に余所余所しかったんだとしたら、謝るよ。ごめん」
申し訳なさそうなサニーサイドの表情に、疑っていたことが逆に申し訳なくて頭を下げる。
「…私の方こそごめんなさい」
「君が謝る必要はないよ。まぁ、僕の日頃の行いが良すぎる所為だと思うしね」
戯けるようにそう言ったサニーサイドに眉根を下げて苦笑する。
「本当ね」
「僕に着けさせてくれる?」
「ええ」
サニーサイドの申し出に髪を上げながら、ラチェットが言う。
「ねぇ、サニー」
「何だい?」
手慣れた様子でラチェットにネックレスを着けながらサニーサイドが答える。
「あなたの趣向も勿論解ってるつもりよ。でも、秘密主義もほどほどにしてくれないと─」
「くれないと、何だい?」
「余計な事ばかり考えて、やきもちを妬くわ」
「─それは可愛い脅しだね」
ネックレスを着け終え、満足そうに眺めるとラチェットの手を取り手の甲に口づけるサニーサイド。
「努力するよ。…なるべくね」
反省してる様子もなく、ウィンクを飛ばすサニーサイドにため息を吐くラチェット。
こうしてずっとサニーサイドに振り回されていくのだろう。
諦めたように頭を振りながら、ラチェットはサニーサイドに寄り掛かった。
─秘密主義の恋人を持った自分に半ば同情しながら。

~あとがき~

サニラチェでしたー。
サプライズが趣味の恋人を持つと、大変だと思います(笑
何だかんだ呆れながらも、サニーさんに付き合ってあげる訳ですよ。
サニラチェの基本は、
「嫌いかい?」
「慣れたわ」
に尽きると思います。

title by: Abandon恋人に囁く10のお題「時々、本当に恋人なのか判らない」

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