『其処で、思う』大神&ラチェット(10/02月作成)

※新ラチェ前提 DS軸です。


夜。
大帝国劇場の二階客席にラチェットは独り立っていた。
数時間前までの熱気が嘘であるかのように静まりかえった舞台を見つめる。
そんな静寂の中で後ろからカタンと音がして身構えながら振り返ると、其処には─。
「ラチェット…?どうしたんだい?こんな所で」
懐中電灯を手に、どうやら日課の夜の見回りをしている途中らしい大神が立っていた。
「…大神司令」
「懐かしいだろう?」
ラチェットの隣まで歩いて来て座席の背もたれに両手を掛けながら、大神が言った。
予想外の言葉に思わず聞き返す。
「え?」
「だって、君も2年前にあの場処に立っていたんだからね」
そう舞台に視線を落とす大神。
─2年前、ラチェットは確かにあの舞台に立っていた。
それも主役として。
あの事件の後だ。
全てをさらけ出したラチェットを花組の皆が受け容れてくれて、赦してくれたあの時。
ラチェットの全てが崩れ、全てが新しく始まった瞬間だった。
「…そうね。懐かしいのかもしれないわね」
曖昧なラチェットの言葉に問い返す大神。
「違うのかい?」
「正確に言うと、よく解らなくて。それを知りたくて、此処で舞台を見つめていたの」
そう大神を正面に見据えた後、ラチェットが続ける。
「あなたの言う通り、私は確かに2年前此処に居た。でも、あなたも知っている通り、今の私とは違う私だった。その時の私が感じたものが現実だったのか、それとも虚構だったのか。それが解らない。勿論、実際に起きているんだから現実には違いないって解ってはいるのだけれど」
最後は自嘲気味に笑ってラチェットが言った。
「…そんなに難しく考える必要はないんじゃないかな」
「私は私のしたことを今でも許される事じゃないと思ってる。だから─」
「それも全部含めて君は君だ。君は確かに2年前に此処でみんなと一緒に居たし、一緒に舞台を作り上げたじゃないか。俺も巴里から帰国して直ぐに観させて貰った。絆を感じられた素晴らしい舞台だったよ」
「大神司令…」
─2年前、早朝に帝劇を出て行く時も大神は同じ笑顔で送り出してくれて。
それで、全てが救われたような気がした。
紐育に帰っても、一からやり直せると思った。
「おかえり、ラチェット。久々の帝劇は懐かしいだろう?」
再びそう聞いた大神に笑顔で頷くラチェット。
「─ええ、とても」
ラチェットの頬を伝うのは幸せな涙。
もうこの場処で俯くことはないだろう─。

~Bonus!!
「それじゃ、俺は見回りに戻るよ」
座席から手を離し、出口へと向かう大神。
「ごめんなさい。引き留めてしまったわね」
そう頭を下げるラチェット。
「いや、構わないよ。君と話が出来て良かった」
「…ありがとう」
「ああ、そうだ」
出口の扉に手を掛けてから、振り返って。
「新次郎のこと、よろしく頼むよ」
「?ええ」
「あいつの手紙には君のことばかりだからね」
最後は戯けるようにそう付け加えて、大神は見回りへと戻って行った。
残されたラチェットは一気に赤面して。
此処が暗がりなのと誰も居ないからいいようなものの、今度新次郎が大神に手紙を書く時には封をする前に中を改めなければと強く誓ったのだった─。

~あとがき~

リクは大神&ラチェットでした。
時間軸的にはDS「君あるがため」で事件解決後のイメージです。
大神さんの寛さでラチェットの心の奥にいつまでもあるだろう罪の意識を解放してあげたかったというか。
私的には、今はまだ話せないけど新次郎が本当に”でっかい男”になった時に、ラチェットが自ずから過去を語るだろうと思います。
多分、大神さんの言葉は新次郎が将来的に紡ぐだろう言葉だと信じて書いてみました。
今の新次郎でもきっと同じことを言うと思いますが、あえて。
書いたことのない組み合わせだったので、新鮮で楽しかったです(*’ ‘*)
ありがとうございました!!

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