「はぁ……」
「どうしたの?大河くん。何か悩み事?」
本日何度目になるか判らないため息を吐いた新次郎にラチェットが問う。
「え?あ、な、何でもないです」
ラチェットの問いに慌てて答える新次郎だが、その言葉通りには全然見えない。
何かを隠しているのが見え見えだ。
「本当に?」
再び確認するラチェットに困った様に眉尻を下げる新次郎。
暫くの沈黙の後、ポツリと言った。
「……どうすれば良いのか分からないんです」
「大河くん?」
「…ぼくはラチェットさんからたくさん幸せを戴いているのに、それをどうお返しして良いのか分からないんです」
泣きそうな顔でそう言った新次郎を見つめた後、微笑んでラチェットが言った。
「ね、大河くん。私こそ大河くんにたくさん幸せを貰っているわ。だから、おあいこだと思うのだけれど」
「本当ですか?」
「ええ」
「良かったです」
笑顔で頷いたラチェットにようやく安堵の笑みを見せる新次郎。
だが、すぐに真剣な顔に戻って。
「それでも、ぼくがラチェットさんに戴いたもの以上のものをお返し出来ていないと思うんです。ぼくはまだまだ未熟で、こんな風にラチェットさんに助けられてばかりです。
だから、ラチェットさんを大切に想う気持ちだけは誰にも負けたくないんです。それは、あなたにだって例外じゃない」
「大河くん…」
「それが今のぼくの精一杯です」
最後に苦笑する様にそう付け加えた新次郎に、感極まって思わず涙腺が緩みそうになるのを抑えてラチェットが言う。
「ううん。何よりのお返しだわ」
「…ありがとうございます」
微笑むラチェットを眩しそうに見つめながら、照れ臭そうに新次郎が笑う。
「でも、大河くん。その件については、私だって負けないつもりよ?」
そう悪戯っぽく笑うラチェット。
「それじゃ、競争ですね!」
「ええ」
「負けませんよ?」
「臨むところです」
目を合わせて。
笑って。
また、幸せなんだと思う。
そんな日常。