「かえでさん」
「何?加山君」
「かえでさんは俺のことをいっぱい考えてくれてます?」
グラスを置くと、唐突にそんなことを言い出す加山。
「突然何なの?」
あまりの答えづらい質問に思わず語調が強くなってしまうかえで。
「良いから答えて下さい」
ところが、加山の表情といったら真剣でとても逃げられそうにない。
「今言わなきゃ駄目なの?」
「出来れば。ちなみに俺はあなたでいっぱいですよ」
自信たっぷりにそう笑顔を見せた加山に小さく呟く様に頷くかえで。
「…知ってるわ」
「それは光栄ですね。で、そこに問題が発生した訳です」
大袈裟にハァとため息を吐く加山。
「問題?」
「はい。あなたのことを考えて考えて、それはもうあなたでいっぱいなのに更にあなたのことばかり考えたくて仕方なくなってしまうんです。…あ。呆れてますね?」
黙って話を聞いていたかえでをチラと見て加山が言う。
「…そういう訳じゃないけど」
「けど、何です?」
「随分、想ってくれているんだなって思って」
意外そうな顔でそう返すかえでに加山が即答する。
「当たり前じゃないですか」
「そうなの?」
「そりゃあそうです。あなたじゃなきゃこんなに想える訳がない。あなたはあなたのことを見くびっています。そして、俺のことも」
「そう…かしら?」
「そうですよ。俺はあなたが思っている以上にしつこいですよ」
「私が思っている以上って?」
「そうですね。例えば、あなたがもういいって言うくらい、あなたに告白し続けますよ。許されるなら、一日に何十回だって何百回だって」
「確かに私の”思っている以上”ね」
戯ける様にそう言い放った加山に苦笑しながら首を傾げてかえでが言う。
「でしょう?鬱陶しいって思ったってもう遅いですよ?」
「そうみたいね」
「ちなみに後悔するとか言ったら泣きます」
「泣くの?あなたが?」
「はい」
大きく頷いた加山に思わず吹き出すかえで。
「ふ、ふふっ」
「あぁ、俺ァ今日も幸せだァ~」
そんなかえでを見て、加山が満足そうに大きく頷く。
そして、ニッと笑って。
「今日もあなたをたくさん想えて、あなたの笑顔が見られました」
「…もう、馬鹿ね」
照れ笑いとも苦笑ともつかない顔でかえでが小さく息を一つ吐く。
そして、加山の肩に寄りかかって。
「…ありがとう。私も幸せよ」
「…何にも勝る答えです」
見つめ合って、微笑んで、グラスを合わせる二人。
こんな風に恋人たちの夜は更けていくのかもしれない─。