『May I call you by XXX?』新×ラチェ (10/01月作成)

『新次郎ー!ねぇ、聞いて聞いてー!』

『新次郎!お前もやるじゃないか!』

『新次郎はリカの子分なんだぞ?!』

その容姿から親しみを感じやすいのかファーストネームでも呼ばれている彼。
幾らこの国が自由の国で誰が誰をどう呼ぼうか関係なくても、家族以外にそう呼ばれるというのは、余程親しいということだ。
それだけ周りから慕われている(可愛がられている)ということは上司の立場からすればとても喜ばしいことだ。
だが、恋人の立場になった途端にどうにも複雑な気持ちになるのは何故なのだろう?
かと言って、今更呼び方を変えるのもあからさまな気がして。
たかが名前を呼ぶだけなのにどうしてこんなにどぎまぎしているのだろうと思う。
思わずため息を吐く。
「やぁ、ラチェット。朝からため息なんか吐いてどうしたんだい?そんなことでは幸せが逃げてしまうよ?」
そんな様子を丁度出勤してきたサニーサイドに見られてしまったらしい。
「サニー。入室する前にはノックをしてくれない?」
決まり悪さからそんなことを言ってしまう。
「したさ。だが、返事がなかったのでね。失礼してしまったよ」
「そ、そうだったの」
「ああ。君にしては珍しく心此処にあらずといった感じだね」
「そう?」
「少なくとも僕にはそう見えたがね。僕の勘違いだったらすまないね」
「いいえ。私の方こそごめんなさい」
そう自分の非礼を詫びるラチェットにサニーサイドは手をひらひらと振った後。
「ああ─」
支配人室のドアに手を掛けてから、再び振り返って言う。
「難しいと思っていることほど、拍子抜けするほど簡単に解決してしまうものさ。”easy come,easy go”だよ、ラチェット」
そうウィンクをして支配人室へと入るサニーサイド。
「ええ。ありがとう」
サニーサイドの助言に素直に笑顔で返すラチェット。
サニーサイドが去って再び独りになった執務室で息を一つ吐いて。
「…新次郎…」
彼の名前を呟くように声に出してみる。
何故、皆平気なんだろうと思う位に、顔が熱くなるのが分かる。
鏡で確認しなくても、自分の顔が紅いことは想像がつく。
ただ名前を呼ぶだけなのに、どうしてこんなに動悸が激しくなるのだろう。
少し落ち着こうと深呼吸をしてみる。
慣れていない所為かも知れないと、それから再び口に出してみたがやはり結果は同じで。
ラチェットは今日何度目になるか判らないため息を吐くと席を立った。
このままでは仕事が手に付かない。
明らかに仕事に支障を来してしまう。
少し冷静になろうと屋上庭園に出る。
だが、そこには。
「あ。ラチェットさん、おはようございます!」
何も知らないで満面の笑みの新次郎が立っていた。
「おはよう。大河くん」
赤面したままではないだろうかと頬に手を遣った後、冷静を装いそう返すラチェット。
「お会い出来て良かった。コーヒーを買って来たんですけど、よろしかったらいかがですか?」
「ありがとう。戴くわ」
そう返事をするとホッとしたように息を一つ吐いて新次郎は手にした紙袋からコーヒーを取り出し、ラチェットに差し出した。
「どうぞ」
「ありがとう」
新次郎からコーヒーを受け取るラチェット。
「ぼくもご一緒してよろしいですか?」
「もちろん」
笑って返すと嬉しそうに新次郎が笑って自分のコーヒーを取り出した。
椅子に並んで座りながら、ふと新次郎の方を見てみる。
「大河くん」
そう呼ぶことはやはり何でもなくて。
「何ですか?ラチェットさん」
口に出してみたものの特に言うことは無くて苦笑するラチェット。。
「ごめんなさい。何でもないの」
「そうなんですか?」
不思議そうな顔でコーヒーを啜る新次郎。
「…やっぱり、ちょっとだけ良い?」
「?はい」
「大河くんは名前で呼ばれる方が嬉しい?」
「そうですね。親近感が感じられるような気がして嬉しいです」
新次郎としては聞かれたから思った通りに答えたのだが、それを聞くラチェットの表情は真剣そのもので。
「そう…」
(何か変なこと言っちゃったかなぁ…)
自分の言ったことを反芻する新次郎。
「あの…」
「それじゃあ、大河くんは、」
新次郎の言葉を遮るようにラチェット。
「私にもそうして欲しい?」
全く予想外の質問に思わず聞き返す。
「え?」
「その、私もあなたを名前で呼んだ方が良い?」
言いにくそうにラチェットが繰り返す。
「ラチェットさんがぼくを、ですか?」
頬を染めて頷くラチェット。
「ラチェットさんが呼びやすいように呼んで下さい」
笑顔でそう返す新次郎にラチェットが言う。
「でも、名前で呼ばれた方が親近感を感じるんでしょう?」
「ラチェットさん。ぼくはあなたがぼくを呼んで下さるなら、それだけで嬉しいんです」
「でも、」
「あなたに呼ばれるととても嬉しくて、とても暖かい気持ちになって、とてもドキドキして。それは誰でもないあなたに呼ばれるからなんですよ?」
ラチェットに語り聞かせるように静かに微笑む新次郎の表情は幸せそのものだ。
「大河くん…」
新次郎の言葉にようやく納得したのかラチェットの表情も輝いて。
「ごめんなさい。つまらないことを言ってしまったわね、私」
「いえ。ぼくはそんなラチェットさんは可愛らしい方だと思いますよ?」
そう言い放った新次郎に見とれつつも呟くようにラチェットが言った。
「……大河くんって、時々無敵よね」
「あなたのことですからね」
苦笑しながらそう返す新次郎。
「ありがとう。とても嬉しい」
「今日も頑張りましょうね!」
「ええ」
そう並んでコーヒーを啜る二人。
そんな紐育の朝の始まり─。

~あとがき~

3年前に書き始めたものの一度ボツにした話です。
どうにか形になって良かった…。
このカプは、とにかくもうラチェが新ちゃんのことばかり考えてダメダメになっちゃうと良いと思います(笑
ラチェは本当に可愛い(*’ ‘*)
少しでも可愛く書ければ。

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