先ほどから何度それを思っただろう。
久し振りに二人で過ごすゆっくりとした時間。
隣に居る事だけで嬉しいけれど。
さっきから話をするばかりで、指先の一つも触れてこない加山。
触れるという事がこんなにも遠くて、触れないという事がこんなにももどかしい事なのかと思い知らされた気がする。
「ん?どうかしましたか?かえでさん」
そんな事を考えてつい気もそぞろになったかえでの顔を覗き込む様に加山が言った。
「な、何でもないわ」
自分ばかりがそう思ってるのかとかえでの顔が羞恥心から紅く染まる。
「そうですか?」
そう聞き返すだけでその先を追求しない加山の態度にもどかしさを通り越して腹立たしくさえ思ってしまう。
いつもだったら、戯けながらも触れてくるのに今日はそれが一切ない。
「もしかして、キゲン悪いですか?」
どうやら、それがすっかり顔に出てしまっているらしい。
「どうして?」
平静さを装って、加山に聞き返す。
「そうですね。思い当たる節があるからですかね」
顔色を変えずにそう言い放つ加山。
そして、こう付け加えた後、ニヤと笑って。
「ちなみに、あなたからしか希望は受け付けませんから」
「…あなたって人は」
こうなると腹立たしさを越えて、呆れるというものだ。
「呆れられてもいいんです。俺は待ってますよ、かえでさん?」
不敵に笑って、加山が言った。
「どうしても?」
「そうですね」
絶対に譲りそうにない加山に覚悟を決めるかえで。
「…一度しか言わないわよ」
「はい」
加山の耳元に唇を近付けて。
「…あなたに触れたいのよ、加山君」
言った後、一気に赤面するかえで。
「その言葉を待ってました」
嬉しそうにかえでを抱き締める加山。
そして、
「あー、今日長かったなぁ。やっとあなたに触れられました」
「…なら、どうして?」
早くそうしてくれなかったのと非難の意も含んでかえでが問う。
「だって、俺ばかりがあなたに触れたいみたいで悔しかったんですよ。それに、こういうのもたまには良くないですか?」
悪びれる様子もなくそう言った加山。
呆れた様な恥ずかしい様な複雑な表情のかえで。
二人の休日は始まったばかりだ。
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