「ねぇ、サニー。唐突な質問なんだけど良いかしら?」
読んでいた本を閉じるとラチェットが言った。
「良いけど、お手柔らかにね」
「魔法を一回だけ使えるとしたらあなたはどうする?」
「…確かに唐突な質問だね。君にしては珍しいタイプの」
オーバーに驚いたサニーサイドに、そんな質問をした自分が急に恥ずかしくなって赤面するラチェット。
「そ、そう?」
「ああ。一瞬聞き間違いかと思ったよ。で、魔法を一回だけ使えたらだね?」
「え、ええ」
「そんなの決まってるじゃない。自分を魔法使いにするんだよ」
『それしかないデショ?』と得意気なサニーサイド。
「あなたらしい答えね」
あまりのサニーサイドらしい答えにラチェットから笑みが零れる。
「それで魔法使いになってサニーはどうしたいの?」
「そりゃあ、君。魔法を使うんだよ」
「魔法使いなんでしょう?」
『魔法使うのは当たり前なんじゃない?』とラチェット。
「あはは、それもそうだねぇ」
『魔法使いなんだもんねぇ』と笑うサニーサイド。
「そういうラチェットはどうなんだい?」
「私?私は…そうね。世界を平和にして貰うかな」
「実に君らしい答えだね」
嬉しそうに笑うサニーサイド。
『あ、そうだ』と唐突に手をポンと一つ叩いてサニーサイドが言った。
「ちなみに僕、魔法使えるんだけど」
「え?」
思いも寄らないサニーサイドの発言に首を傾げるラチェット。
サニーサイドが魔法を使えるなんて話は一度だって聞いたことがない。
「まぁ、僕のは魔法って言ってもラチェットにしか効かないから」
「私にしか?」
「そう、ラチェット限定。知りたいかい?」
意味ありげに笑ってサニーサイドが言った。
「え、ええ」
戸惑いながらも頷くラチェット。
「もしかして疑ってる?」
「だって…」
『突然、そんな事言われて信じられると思う?』とラチェット。
「そんな素直なラチェットに僕が魔法をかけてあげよう」
「”素直な”は余計よ」
『まぁまぁ』と言いながら立ち上がるサニーサイド。
そんなサニーサイドを疑いの眼差しで見つめるラチェット。
「え?」
ラチェットの目の前に来たと思ったら、その鎖骨を指でなぞって唇を近付けるサニーサイド。
「ちょっ、ちょっとサニーっ…」
覚えのあるその感触に反応して一瞬体が熱くなったかのように感じる。
だが、サニーサイドの唇が触れたのはそこだけでそっと離れて行く。
「…これのどこが魔法なの?」
『どういう事か解らないんだけど?』とラチェット。
その目は不意を突かれたことで怒っているようにも見える。
それに怯んだ様子も見せないでサニーサイドが言う。
「魔法だよ。僕を忘れられなくなる魔法」
そして、そこに残った赤い痕に触れるサニーサイド。
「これが消えるまでは僕のことを忘れられないよ?…これを見る度に僕のことを思い出すよ?」
わざとラチェットの耳元で低い声で囁くサニーサイド。
耳元から聞こえるその甘い囁きにゾクリと震えがくるのが解る。
その感覚に半ば目眩を覚えながらもラチェットが問う。
「…魔法が解けてしまったらどうするの?」
「解かなければいいんだよ」
「どうやって?」
「ラチェットが僕を欲しがってくれればいい」
『ね、簡単でしょ?』と笑うサニーサイド。
「え、ええ…」
『こういう話はやっぱり苦手だわ』と顔を火照らせながらラチェットが頷く。
そんなラチェットを見て微笑みながらサニーサイドが言う。
「ね。僕、魔法使えたでしょ?」
「なるほど…、私限定ね」
「ああ。限定さ」
そして、二人はクスクス笑い合ってから。
どちらからともなく顔を近付けた。