『胸の奥に隠した真実』プラム→新(08/05月&06月作成)

※プラム連鎖EVバレ

「恋は突然に。」

少し前に失恋をした。
幼なじみでずっと想い続けた人だった。
自分でも本当に一途だったと思う。
それだけにダメージは大きくて。
何でもっと早く打ち明けなかったんだろうとか後悔ばかりで。
暫くは立ち直れないだろうなんて思ってた。
…思ってた、なんて過去形なのは状況が変わってしまったから。
失恋の痛手は確かに大きかったはずなのに、案外普通に(というより自然に)笑えているし、楽しい事も本心から楽しいと思える。
ティーンの頃はもっと引きずっていたし、それは年の所為なのかしらなんて思ってみたりもした。
年とともにそういう感覚ってマヒしていっちゃうものなのかしら、なんて。
そんな風に考えてみたりしたけど、幾つになったって(希望的なことも含めるけれど)失恋の痛みは変わらないものだと考え直して、ますます自分の状況が判らなくなった。
ジェームズの事を思い出すと、まだ胸は痛いから失恋のショックは残っているんだと思う。多分ね。
でも、もの凄く辛いとかそういうのはないのよね。
あたし、どうしちゃったんだろう?
「…ム、プラム!」
頭の遠くの方から杏里の声が聞こえてきてハッと我に返る。
「…あら、何?杏里」
「もうっ。さっきからずっと呼んでるのに、プラムったら全然気付いてくれないんだもん」
頬を膨らませながら杏里が言った。
「ごめーん。ちょっと考え事をしてたのよ」
「…ねぇ、プラム。私の勘違いだったらごめんね」
わざわざそんな前置きをして急に真剣な顔になる杏里。
「何よ?急に改まっちゃって」
「プラム、最近何かあった?」
自分では普通にしているつもりだったけど、杏里には気付かれちゃってたって事?
杏里って意外に鋭いところがあったりするのよね。
「どうして?」
「何となくだけど。プラム最近変だから」
「そーお?」
あたしのその言葉に杏里が自分の拳を握って強く主張する。
「そうだよ!何かさっきみたいにボーっとしてる事が多いし」
「大丈夫よ。ちょっと疲れてるだけだから」
「本当?大河さんに何かされた訳じゃない?」
杏里の唐突なその言葉に思わず動揺してしまう。
「ちょっ…、何でそこでタイガーが出て来んのよ?!」
あたしのその反応に訝しげに眉根をひそめながら杏里が言う。
「…プラム、最近大河さんを見てる事が多いから」
あたしが?
タイガーを見てる?
「杏里の気の所為じゃなくて?」
「気の所為なんかじゃないってばっ。ドリンクバーと売店は向かい合わせなんだからね。プラムがどこを見てるかだって判るんだから」
半ば得意気に杏里が言った。
えー?
あたし、そんなにあからさまにタイガーを見てたの?
「も、もうっ。嫌ねぇ!そう言う杏里こそタイガーを見てるんじゃない?」
「わ、私が何で大河さんなんかをっ」
自分から話を逸らして欲しい一心で、あたしが言った事に予想通りの反応を返す杏里。
「赤くなってるわよ?杏里」
「なってませんっ。もうっ、今は私の事じゃなくてプラムの話をしてたんじゃない」
あたしの切り返しにも負けないと言わんばかりに杏里が軌道修正した。
「…あたし、そんなにタイガーの事ばかり見てる?」
観念してそう聞くと、杏里は思い切り頷いた。
「ねぇ、プラム。まさかとは思うけどー、」
「何よ?」
「その、大河さんのこと…」
言うのも憚れるのか杏里が言葉を濁す。
杏里の言いたい事はもちろん解ってる。
「そう見えちゃう?」
「うん。違うの?」
「んー…。あたしもよく解らないのよね」
苦笑しながらそう答える。
それは正直な気持ちだった。
「そう、なの?」
歯切れの悪いあたしの言葉に意外そうな顔の杏里。
「タイガーのコトはもちろん好きよ?可愛いし、何か放って置けない感じだしね。でも、それは杏里だって同じでしょ?」
「だーかーらー!私は大河さんなんかっ」
そういう風に慌てて否定する様がかえって怪しいんだけど、そこはあえて触れないでおいてあげる。
それ以上突っ込むと杏里はますますムキになって否定するのよね。
そこが杏里の可愛いところでもあるんだけど。
「ごめん、ごめん。杏里をからかうつもりはなくて。あたしのそういうのを恋かって言われると、何か違うなぁとか思うのよ」
「でも、恋って突然来るものなんでしょ?」
目を輝かせながら杏里が言った。
でも、それって結構当たってて自覚した途端に世界が変わったりするのよ。
「そうなのよねー」
そう頷くと、杏里は期待に満ちた目であたしを見た。
「やっぱりそうなんだぁ…」
「きゃっふーん。杏里は恋、したい訳ねぇん」
「そ、そりゃあ私だって!」
言ってからハッとなる杏里。
「私だって?」
「にゃうんー。えっとー…だからっ、私の事じゃないんだってばっ」
今日の杏里はなかなか手強いみたい。
「はいはい。あたしの事ね」
「そうだよっ。結局、プラムはどうなの?」
「さっきも言った通りよ。まだよく解らないわね」
「ふーん。そうなんだ」
ジッとあたしを見た後、ホッとしたように小さく息を吐く杏里。
まったく素直じゃないんだから。
「安心した?」
「え?あ、当たり前じゃないっ。大河さんにはプラムは勿体ないもん!」
「もう杏里ったら」
「だって、本当の事だもん」
杏里は本当にタイガーには容赦ないわよね。
まぁ、それは信頼の裏返しなんだって解ってるけど。
「それより、あたしに何か用があったんじゃないの?」
「あ!そうだ!ラチェットさんから言伝を頼まれてたんだった」
「ラチェットから?」
「うん。ドリンクバーの新メニューの件、よろしくって」
この前ラチェットから相談された件ね。
「いつから始めたいとか言ってた?」
「それは言ってなかったけど」
「分かったわ。ありがとう、杏里。直接、ラチェットに聞いてみるわ」
「うん。じゃあ、私も仕事に戻るね。今度の公演の衣装をチェックしないといけないんだ」
そう言うと杏里は衣装部屋のある劇場の奥へと消えていった。
さて、あたしも仕事しなくちゃね。
まずはラチェットに詳細を聞かなきゃ。
エレベーターに乗ってオフィスのある最上階を押す。
エレベーターを降りると、そこには屋上庭園が広がっていて、あたしたちみんなの憩いの場になっている。
サニーの趣味で露天風呂なんかもあったりして。
あとここからの眺めが好き。
ここに立って紐育の街を眺めているだけで、嫌な事も忘れられるような気がしてくる。
ぼんやりとさっきの杏里の言葉が頭によぎる。
『…プラム、最近大河さんを見てる事が多いから』
杏里の言う通り、やっぱりタイガーの事が気になっているのかしら?
じゃあ、いつから?
きっかけは多分判ってる。
ジェームズに失恋したあの夜だと思う。
あの時タイガーは偶然通り掛かったにも関わらず、泣いているあたしの話を黙って聞いてくれたのよ。
タイガーが居てくれたからあたしはあの時イヤな女にならずに済んだ。
ジェームズにちゃんと”おめでとう”って言えた。
タイガーのおかげで幼なじみとして振る舞う事が出来たの。
だから、タイガーにはすごく感謝してる。
それに…、タイガーの前では素直になれちゃうのが不思議。
星組のみんなが心を開いたのも解った気がしたわ。
確かにタイガーはそういう存在なのよ。
でも、だからってどうなの?
思わず、ため息が漏れる。
…結局のところ、こういう風にタイガーの事ばかり考えちゃってるじゃない。
これはもう決定的ね。
間違いなく、気になっちゃってるって事よねぇ。
んー、よりによってどうしてタイガーを選んじゃったのかしら。
タイガーは激戦区なのにね。
確率からいったって、あたしに分があるとはとても思えないわ。
大体、今までそんな素振りを見せて来なかった訳だし。
(それは当たり前よね。気付いたのが正に今日なんだから)
その事でもう何歩も後れを取っちゃってるんだから。
今更どうしろっていうのよ。
ジェームズに続いてタイガーにも失恋決定な訳?
「もうホント嫌になっちゃう」
思わずそう口に出してしまう。
自分で言うのも何だけど、あたしって結構恋愛には奥手になっちゃうのよね。
「プラムさん?」
背後から突然の声。
それもこのタイミングで。
神様って結構意地が悪いんじゃないかしら。
「タ、タイガー。どうしたの?」
あくまでもいつも通りに、自然に、って自分を落ち着かせながら振り向く。
「ぼくはプラムさんを探してたんです」
「あたしを?」
昨日までとこの気持ちの差は何なの?とか思いながら、そんな言葉にもドキッとしちゃったりして。
「はい。ラチェットさんから、プラムさんのドリンクバーの新メニューの考案を手伝って欲しいと言われたので」
…何て言うか。
ラチェットに感謝するところなのか、恨むところなのか複雑な気持ちだわ…。
「そうなの」
「はい。でも、どういうものが良いかよく分からなくて。プラムさんは何か思いつかれましたか?」
「んー。あたしも実はまだなのよねぇ」
そう仕事よ、仕事。
仕事に集中すればいいのよ。
「そうですか。…あ!じゃあ、マギーさんのお店に行ってみませんか?何か良いアイデアが浮かぶかもしれませんし」
思い掛けないタイガーの提案に思わず動揺する。
「え?今から?」
あたしのその反応を”困惑”と取ったのか申し訳なさそうに恐縮してタイガーが言う。
「す、すみません。プラムさんのご都合も考えないで、ぼく勝手に決めちゃって」
「そんなことないわよ。お言葉に甘えちゃってもいい?」
そうタイガーが謝ることないのよ。
タイガーに他意はないんだから。
あたしが勝手に『それってデートっぽいかも』とか思っちゃっただけなんだから。
「はい!じゃあ、先に下で待ってますね」
タイガーは一礼するとエレベーターに乗り込んだ。
「これってやっぱりデートって言うわよね…」
一人呟いてみる。
想いは叶わないかもなんだから、これ位は許されるわよねなんて思いながら。
ああ、もう冷静にならなきゃ。
これじゃ、タイガーに変だと思われちゃうわね。
自分を落ち着かせる為に深呼吸をすると、あたしも下に向かった─。

「ドリンクバーのメニューってどういうものが良いんですか?」
「そうね。基本的には手軽につまめるものが良いわね。お客様は開演前とか休憩中にいらっしゃるからね」
「そっか。そうですよね」
道すがらそんな話をしながら歩く。
うん。大丈夫。
自然に話せてるわよね?
何かむやみに緊張してきちゃったわ。
あたし今までどんな風に話してたっけ?
意識しちゃうとホント、ダメ。
「…プラムさんが元気になって良かったです」
突然、そんな風に笑いかけるタイガー。
ちょっ…、タイガー!?
このタイミングで何を言う訳?
…じゃなくてっ。
お礼、そうお礼を言わないと。
「改めてあの時はありがとうね。タイガーが居てくれて助かったわ」
「そんな止めてください。ぼく、何もしてないですよ」
「それが嬉しかったのよ。あたしの話をただ聞いてくれたじゃない?それですごく救われたわ」
「プラムさん…」
「タイガーは失恋の特効薬って何か知ってる?」
って、あたし何言っちゃってんの?!
他の話題だってあるじゃない。
むしろ話を逸らさなきゃなのにっ。
「そんなものがあるんですか?」
「それがあるのよ。…知りたい?」
「はい。知りたいです」
「きゃっふーん。じゃあ、正直なタイガーには教えてあげる。…それはね?新しい恋をすること、よ」
「新しい恋、ですか」
その答えが意外だったのかキョトンした表情でタイガーが言った。
「そうよ。意外?」
「あ、はい。ちょっと…」
そう言葉を濁すタイガー。
タイガーの思った事は何となく解っちゃったわ。
すごく想ってたひとを簡単に忘れられるのかって事よね。
「タイガーはそういうのってデリカシーがないって思う方?」
「そういう訳じゃないんですけど。もし、ぼくだったらなかなか忘れられそうにないから」
そう苦笑するタイガー。
「きゃっふーん。タイガーは一途なのねぇ」
あたしがそう言うとタイガーは照れ臭そうにえへへと笑った。
笑うとまだこんなにあどけないのにね。
でも、すごく惹かれてしまうのよね。
「ねぇ、タイガー」
「はい」
「あたし、タイガーのコト、好きになっちゃったみたいなんだけど」
気が付くと、自分の気持ちを口にしてしまっていた。
信じられない。
何で言ってしまったんだろう。
後悔して横を見ると、隣を歩いていた筈のタイガーの姿が無くて。
後ろを振り向くと、タイガーはその場で立ち尽くしていた。
慌ててタイガーの所に戻ってその顔を見ると、困ったような混乱しているような複雑な顔をしている。
「プラムさん、あの…。今のって…」
嫌ね、あたしったら。
タイガーが困るのは始めから解ってた事なのに。
大体、さっきの話をした後だもの。
普通、引くわよね…。
「…や、嫌ねぇ!冗談よ、冗談!」
その場の何とも気まずい空気を追い払うようにそう言って、タイガーの肩を叩く。
「そ、そうだったんですか?!もうプラムさん、驚かさないで下さいよー」
「ごめーん。タイガーの困った顔が見たくて、つい」
笑いながらそう言うと、タイガーもホッとしたように笑い返してくれた。
本当は困らせたくなんかなかったのに。
だって、あたしの一方的な想いなのだから。
これは、隠し通して昇華させなきゃいけない気持ちなのよ。
泣きたい気持ちを抑えて、あたしは笑顔を作った。
大丈夫。
あたしはいつも通りに出来る。

─この気持ちは胸の奥に隠して閉じこめて。

~あとがき~

プラム→新次郎でした。
何だか後味の悪い話ですが(^^;)
いつか続きを書けたら良いですね。

プラムはEDがね、切ないですよねぇ。
あれで気持ちを断ち切ったとしたら切ないので、何か別の展開もあって欲しいとか思っちゃったりしまして。
プラム好きなんだけどなぁ。
中身可愛いもんね、絶対。(*’ ‘*)

…と、いうか。
今回は久々に一人称だったので、少々疲れました(笑
その所為かプラムがちょっとニセ者っぽくなってしまいました( ̄∇ ̄;
目標としては
『プラムって結構純情なんだな!』(サジ姐調)
を目指したつもりです。

title by:dix/恋をした2人のためのお題『胸の奥に隠した真実』

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