『I think so about xxx.』サジータ&昴 企画もの(06/03月作成)

セントラルパークの一画。
陽が落ちてすっかり薄暗い園内。
それを照らす為に置かれた街灯のそばのベンチに座る一人の小柄な人物。
肩口で切り揃えられた艶やかな黒髪。欧米人が見ても美しいと評価するその端整な顔立ちは東洋の神秘と表現するに値するだろう。
その人物の名は九条昴。
今もっとも、ブロードウェイで注目されているリトルリップシアターの人気役者の一人である。
昴の傍らには何やら大きいバスケットが一つ置かれている。
この寒空の下、誰かと待ち合わせだろうか。
そこに、カツカツと規則正しい靴音がして、背の高い黒い皮のコートの人物が昴の前で立ち止まった。
きっちりしたパンツスーツの上に黒い皮のコートを着こなして、毅然と歩くその姿が決まっている。
その人物の名はサジータ・ワインバーグ。
昴と同じく、リトルリップシアターの人気役者である。
「…よぉ…」
座る昴の前に立つサジータ。
「…やぁ…」
顔を上げる昴。
目が合って、手短に挨拶を交わす。
「…まさか、お前から食事に誘われるとは思ってもみなかったよ」
「…僕も君を誘うようになるとは思っていなかったさ…」
そんな言葉がお互い出るほど、いわゆる”仲良しさん”ではない二人である。
ましてや、他人との必要以上の干渉を好まない昴からの誘いなのであるから、これはサジータに限らず相手が誰であっても比較的珍しいことと言える。
「で、何処に行くんだ?」
「…もう来ている」
サジータの質問に表情を変えずに即答する昴。
「は?!」
思わず聞き返すサジータ。
「…ここがそうさ…」
昴の言葉に不可解な表情をしているサジータを後目に傍らのバスケットをゴソゴソと探る昴。
「?何だよ、それ」
「…今日のディナーさ…」
そう言うと昴はバスケットからクロスを取り出しベンチの上に敷いた。
そして、クロスの上に数種類の料理が少しずつ乗せられている大きなプレートを一つ、そしてカトラリーを2脚置いた。
「…そういう事かよ」
ようやく昴の言葉に合点がいって、サジータはクロスを挟んで昴と向かい合うようにベンチに座った。
「お前の事だから、さぞや豪勢なディナーなんだろうと思ってたぜ」
サジータの持つ昴のイメージからは想像もつかなかったその行動に、ついそんな言葉が出てしまう。
「昴は言った…。それは期待に添えなくて済まないな…と」
「いや。展開の意外さに拍子抜けしてるだけだ。お前はよく解らない奴だけど、ますます解らなくなった」
「………」
サジータの言葉の意図が分からず黙る昴。
「黙るなよ。誉めてんだからさ」
ニヤと笑ってサジータが言った。
「…昂は言った。…とてもそういう意にはとれない…と」
「そうか?」
「ああ…」
「まぁまぁ、気にすんなって。それより早く飲もうぜ。用意してあるんだろ?」
「…やれやれ」
呆れたように一つ息を吐くと昴はバスケットの中から、ワインのボトルとグラスを二つ取り出した。
サジータは昴からボトルを受け取ると自ら栓を抜いて、昴のグラスと自分のグラスにワインを注いだ。
「じゃ、乾杯」
「ああ…」
二つのグラスがぶつかってグラスの硬質な音が辺りに響く。
「で。どういう魂胆なんだい?お前があたしを誘うなんてさ」
グラスから口を離して、サジータが言った。
「…魂胆とは言ってくれるじゃないか」
サジータの物言いに不敵に笑って昴が返す。
「じゃあ、こう言うか?昴、お前何を企んでる?」
「サジータ、君はそんなに僕に何かして欲しいのか?」
「気色悪い言い方すんなっ」
「…君の言い方に合わせただけだ」
「ああ、そうかよ」
うっかりするとすっかりいつものペースになる二人である。
「昴は思った…。これではいつもと変わらないと」
「ああ、まぁ、そうだな。少し落ち着くか」
「…僕は初めから落ち着いている」
「ああ、そうかよ!…って、あたしが悪いのか?」
「解ってるじゃないか」
どうにも挑発的な昴の物言いに思わず拳をギュッと握るサジータ。
「堪えろ、あたし…。そうだ、ワインでも飲んで落ち着け」
自分に言い聞かせるように、ワインを喉に流し込む。
「…落ち着いたかい?」
「…ああ。まぁな」
「…では、本題に入らせて貰う」
「やっぱり…」
『何かあるんじゃないか』そう言いかけてサジータは止めた。
言ったら、またいつもの感じになって話が先に進まないからである。
「…何だい?」
「いや。何でもない。話を続けてくれ」
「ああ。そうさせて貰う」
そう言うと昴は一拍おいてから、言った。
「…昴は問う…。君は大河をどう思っているのか?…と」
昴の唐突な質問に、思わず体勢を崩しそうになるサジータ。
「お前が変な事言い出すから、ワイン零しちまうところだったじゃねぇかっ」
「心外だな。僕は変なことを言った覚えはない」
眉をひそめる昴。
「ああ、悪い。そうだな、訂正しよう。お前からそんな事を聞かれると思わなかった」
「………」
「新次郎のことは可愛い奴だと思うよ。どんな事にも一生懸命なのは良い事だ。それに何つうか…、頼られると弱いんだ、あたしは。自分で何の努力もしない で、人にばっか頼ってる奴には手を貸したくないけど、あいつは違うだろ?だから、放っておけないんだ。まぁ、最初あのインチキメガネスーツが新次郎を入隊 させるって言い出した時には『ママのとこに帰んな』って怒鳴ってやりたくなったけどな」
そう言うとサジータは笑った。
その顔はとても慈愛に満ちている。
「そういうお前はどうなんだよ?昴は新次郎の事をどう思ってるんだ?」
逆に質問されて、昴は手にしたグラスの側面を見つめながら言った。
「昴は思う…。大河は僕たちの隊長としてはまだまだ力不足だ…と。だが、大河の真っ直ぐな心は僕たちを動かし、僕たちに大きく影響する。それは事実 だ。…だから…。…いや何でもない」
「?何だよ?言ってみろよ」
珍しく言葉を途中で濁した昴にサジータが促す。
「つまらないことだ…」
「それはあたしが判断する事だろ?」
サジータのその言葉に一つ息をつくと、諦めたように昂が言った。
「…昴は思った。…僕たちが大河と出会ったのは必然だったのではないか…と」
言った後、決まり悪そうに視線を外す昴。
思わず、昴の顔を見るサジータ。
一瞬の沈黙の後、サジータが口を開く。
「お前らしくない言い方だな」
「…自分でも解ってるさ」
「でも、あたしもそう思うぜ?あたしたちが新次郎と出会ったのは偶然じゃないってね」
そう昴の肩をポンと叩くサジータ。
フッと笑みが零れる昴。
「珍しく君と意見が合ったね」
「本当だな!」
豪快に笑うサジータ。
「ん?寒いと思ったら、雪が降って来やがったのか」
空を見上げながらサジータが言った。
ぱらぱらと雪が散らつき始め、サジータの持つグラスの中にはらりと落ちる。
「…雪見酒か…。悪くないな…」
昴がぽつりと日本語で呟いた。
「何だって?」
昴に聞き返すサジータ。
「日本では雪を見ながら酒を楽しむのを雪見酒と言うんだ」
そうサジータに説明する昴。
「へぇ…。あんたからそんな話を聞けるとは思わなかったよ。今夜はそんなことばかりだな」
「可笑しいかい?」
「いや、いいんじゃないか?そんな夜も。一年365日、365通りの夜があるんだ。これもその中の一つさ。冬に夜の公園でピクニックなんて、そうあるこ とじゃないぜ」
「…現実主義の君らしくない言い方だな」
「ああ。そうかもな」
「これも大河の影響か?」
「お前と同じだろうが」
「ああ…。そうだね…」
頷く昴。
その表情はとても穏やかで柔らかい。

─紐育の寒空の下。
不思議とそんなに凍えないのはワインの力によるものだけではない。
そこに間違いなく暖かい空気が流れていたからだろう。

~あとがき~

企画モノ第3弾、今回のメインコンセプトは「食事」、キーワードは「メガネ」「お酒」でございました。
すみませ~ん!!!アイテム「メガネ」の使い方微妙でした…(土下座)
どうも紐育でメガネというとダイアナよりサニーを思い出すんですけど(笑)

さて、紐育の私のファーストヒロインはサジータで、次が昴でした。
クジ引きの結果、そんな二人でSSを書く事になり密かにラッキーだと思ってました。
が。現実はそんなに甘いものではなく、思いの外悩まされました(笑)
何回もドラマCDを聴いてイメトレしました(爆)
サジータって口は悪いけど、カンナやロベリアとはまた違うじゃないですか。
その辺の微妙な感じがね…(^^;)
相手が昴って言うのがね。
会話がどうにも進まない訳ですよ。
だから、昴がちょっと饒舌気味になってます。
でも、昴って新次郎の事に関しては饒舌になると思う(*’ ‘*)
あ。そして、このお話は昴×新次郎前提の事で(笑)

しかし、久し振りに”縛り”のある中で書いたので頭を使いました(笑)
たまには、こういうことをしなきゃダメですな。

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