いつも通りいつもの時間。
あのこと遊ぼうと中庭に出てみると、そこには珍しい先客があった。
ボクの姿を見つけて啼きながら走ってくるフント。
それでボクが来たことに気付いた彼女がこちらを向いた。
「あ、レニ」
「どうしたの?織姫。珍しいね、ここで会うのは」
走り寄ってきたフントを抱き上げて、そう声を掛ける。
「ちょっち、気分転換で~す」
「いつもは音楽室にいるじゃない」
「たまにはこうやって風に当たりながら、気分転換するのもいいかなって思ったでーす!」
「…今日はほとんど風吹いてないけど」
ボクがそう言うと織姫は決まり悪そうにボクから目を逸らした。
眉間にしわを寄せて何だかとても苛ついているようにも見える。
「…機嫌悪いね」
「そんなことないでーす!」
「…そう」
「はい…」
そう否定をしながらも如何にも機嫌が悪そうな織姫。
きっと隊長とケンカでもしたのだろう。
「…………」
「…どうして、中尉さんは誰にでも優しいでーすか?!」
一瞬の沈黙の後、織姫がポツリと言った。
やはり隊長のことだったらしい。
「…それで機嫌が悪かったんだ」
「別に機嫌悪くないでーす!!ただ…」
「ただ…?」
「ちょっちムカついただけでーす!!」
それを機嫌が悪いって言うんじゃないのかな…。
「そう…」
「…それだけでーすか!?」
織姫がボクの返事に不満そうな顔をした。
織姫はボクにどんな言葉を期待していたのだろうか?
「隊長が皆に優しいのは今に始まった事じゃない」
それは織姫だって解っている事じゃないか。
「そうですけど」
「そういう隊長だから今のボクたちがいる。隊長の優しさでボクたちは救われた」
見返りを求めない優しさがあるんだって教えられたんじゃないか。
「解ってます…。解ってますけど」
頷きながらも、何か言いたそうな織姫。
「…大丈夫」
織姫の言いたいことは多分解る。
「え?」
「隊長は…皆に優しいけど織姫にはもっと優しいと思う」
きっと織姫らしくもなく不安なんだ。
隊長がみんなの隊長だから。
「レニ…」
「だから、心配する必要はないよ」
ボクにはそうとしか言えない。
でも、隊長はみんなの隊長だけどみんなの隊長じゃないんだよ。
「どうして…」
「?何?」
「どうして、そんな風に思ったでーすか?!」
断言に近いようなボクの言葉に織姫が問う。
「…目だよ。隊長の目。隊長が織姫を見る時はすごく優しい目をしてるから…」
ボクたちを見てくれる時も優しい顔をしているけど、織姫に向けられるその表情はそのどれよりも優しく見える。
だから、不安に感じることはないとボクは思ったんだ。
「そ…ですか?」
「ボクが嘘を言うと思う?」
「レニはいつだって本当のことしか言いませんね」
「そうだよ」
そう頷いたボクにようやく笑顔を見せる織姫。
「レニ、グラッツェ!おかげで元気になりました!」
すっかりいつもの織姫の調子だ。
「どういたしまして」
昔のボクたちだったら考えられないような会話も笑顔も全部、ここのみんなと隊長のおかげだ。
毎日が新鮮で楽しくて騒がしいのも嫌いじゃないと思えたり。
いつもその中心には隊長がいて。
織姫には悪いけど、隊長にはやはりみんなの隊長でいて欲しいと秘かに思ったある日の午後─。