『ねぇ、この夜空の向こう側にはどんな世界が広がってるの?』
『ねぇ、この窓の向こう側にはどんな世界が広がっているの?』
そんな事ばかりを考えていた昔のボク。
…──じゃあ今のボクは?
今のボクには向こう側の世界が見えているの?
今日のレビュウは花火とボク。
いつも花火と一緒にいるグリシーヌが家の用事があるとかで珍しくいない。
エリカはエリカでお昼ごはん代わりにプリンを食べ過ぎてお腹を壊したらしい。
ロベリアは刑務所にいて週末にならないと帰って来られない。
そんな訳で、珍しくも楽屋にはボクと花火の二人だけだったのだ。
そこで今夜の夕食の話になって、花火が日本食をごちそうしてくれることになった。
今は花火の部屋でタタミの上に座りながら料理を作ってくれている花火を待っているところ。
何となく、立ち上がって窓の外を見てみる。
前にイチローのお手伝いでこのお屋敷を行ったり来たりしたけど、こうやって庭を見てみてもやっぱりすごく広い。
そして、その庭の向こう側にはぼんやりと街の灯りが見える。
夜の街にはお店の看板や外灯や家の灯りやらいろんな灯りが溢れている。
その中でもボクは窓から零れ落ちたかのように外に漏れるあのまぶしい灯りが好きなんだ。
その光はどの灯りよりもとても明るいような暖かいような、そんな気がして何だかとても羨ましかったのを覚えてる。
…と、コンコンとノックの音がして、ワゴンに料理を載せた花火が戻って来た。
「お待たせ致しました。?どうかなさいましたか?」
立ち上がって窓の外を眺めていたボクを花火が不思議そうに見る。
「ううん。何でもないよ。それより手伝おうか?こっちのテーブルに運べばいいの?」
「あ、じゃあ、お願いして宜しいですか?」
「もちろん!」
花火から料理の載ったお皿を受け取ってタタミの上に置かれた脚の低い小さいテーブルの上に置く。
お皿を全て運び終えるとテーブルの上は花火の手料理で埋め尽くされた。
「わぁ、どれも美味しそうだね!日本料理をごちそうになるのなんてこの前みんなでトーキョーに行った時以来だよ」
花火と向かい合って座りながら言う。
「その際にさくらさんに簡単な日本料理を教えて頂いたんです」
「そうなんだ。ね、食べてもいい?」
「どうぞ。お召し上がり下さい」
「いただきま~す!」
そう手を合わせたところで、三角形のご飯のかたまりみたいな物が目に入った。
初めて見る料理だ。
「ねね、花火。これは何て言うの?」
「”おにぎり”と言うそうです。日本ではお夜食やピクニックなどの時に召し上がることが多いと伺いました」
「へぇ、サンドイッチみたいなものなんだね」
「そうですね」
「どうやって食べればいいの?」
「サンドイッチと同じようにこうやってそのまま手に持っていただくんです」
そう言うと花火はオニギリを手に持って見せてくれた。
ボクも真似してオニギリをそのまま手に持ってみる。
こういう気取らなくていい料理の方がやっぱり好き。
グリシーヌがいつも食べているような料理は美味しいんだけど何だか変に気を遣ってしまう。
ボクがまだ子どもだからそんなことを思うのかなって思ったら、イチローもそんなことを言ってた。
妙に緊張して何だか食べた気がしないんだって。
その後、イチローはそれを聞いたグリシーヌから『紳士たるものは…』なんてお説教をされちゃったんだけどね。
ご飯を食べる時くらいイヤなことが無いようにしたいって思うのはワガママなのかな?
そんなことを考えながら、ボクはオニギリを一口食べた。
「…………。」
おいしい…。
すごくシンプルなのになんでこんなにおいしいんだろう?
この味…何て言えばいいんだろう。
「…お口に合いませんでしたか?」
オニギリを口にした途端、黙ってしまったボクを花火が不安そうな顔で見ている。
「う、ううん!すごくおいしいよ!」
心配を掛けてはいけないと、慌てて返事をする。
「そうですか。安心しました。お口に合わなかったらどうしようと思ってたんです」
不安そうな顔をしていた花火の顔から笑顔がこぼれた。
ボクの何気ない一言で笑ってくれる花火。
ボクの言葉が笑顔になる。
ボクの笑顔が言葉になる。
そんな時間。
…!そうだ。
そうだよ!
このオニギリの味。
それは…。
「ねぇ、花火。窓の向こう側のことって考えたことある?」
「?窓の向こう側、ですか?」
そう花火に問いかけると花火は首を傾げてボクに聞き返した。
「そう。建物にはさ、小さくても大きくても窓があるでしょ?」
「はい」
「夜になるとさ、その一軒一軒の窓から光が漏れるじゃない?その光の向こう側にはどんな世界が広がっているんだろう?…って」
「それは何だか素敵ですね!恥ずかしながらそういう風に考えたことはありませんでした」
ボクのその言葉にパアッと目を輝かせながら花火が言った。
「そういう風に言われると照れくさいよ。そんな素敵とかそういうのじゃないからさ」
「でも素敵ですよ」
そうウットリされると本当に照れてしまう。
「ありがと。それでね、さっき花火の作ってくれたオニギリを食べてね。すごくおいしかった。それをね、何の味って言えばいいのかなって考えてたんだ」
「おにぎりの味ですか?」
「うん。花火の作ってくれたオニギリは窓の向こう側の味がしたんだ」
「??」
ボクの言葉に花火は考え込んでしまった。
窓の向こう側の味なんて言ったって解りづらいよね…。
ボクは言い直した。
「えっとね。暖かくて優しい味がしたんだよ」
「暖かくて優しい味…」
「ボクね、窓の向こう側の光は暖かいんだってずっと思ってたんだ。その光の下ではみんなが笑ってて、その光の下ではみんなが一緒なんだ。みんなが光の優しさに包まれて、幸せな気分なんだ」
花火はずっとボクの目を見て、じっと話を聞いてくれる。
バカにすることもけなすことも絶対にしない。
花火もイチローもエリカもみんなもボクが子どもだからって適当にあしらったりしない。
ちゃんと”ボク”を見てくれる。
「ボクだけその光の下に入れなかった。窓の向こう側に行けないんだって、入れて貰えないんだってみんなに会う前はずっとそう思ってた。でも、ボクはいつの間にか窓の向こう側にいたんだ」
いつだってボクの居場所を残しておいてくれるみんなに囲まれてる。
それはボクの”窓の向こう側”の世界。
「コクリコさん…」
「だからね、花火の作ってくれたオニギリは暖かくて優しくて─窓の向こう側の味がしたんだよ」
「それは何よりの誉め言葉です。本当にありがとうございます」
花火はそう言うとボクに深々と頭を下げた。
ボクもつられて頭を下げる。
「どういたしまして」
「…………あはは」
「……ふふ」
二人で頭を下げ合っているこのおかしな状況に思わず笑いが漏れる。
「はは、ボクたち何やってるんだろうね」
「ふふ、そうですわね」
「折角の料理が冷めちゃうね」
「いただきましょう」
「うん!」
『ねぇ、この夜空の向こう側にはどんな世界が広がってるの?』
『ねぇ、この窓の向こう側にはどんな世界が広がっているの?』
そんな事ばかりを考えていた昔のボク。
窓の向こう側の世界はボクの思っていたとおり、暖かくて優しかったよ。
…──それはボクの大好きなひとたちが教えてくれたボクの居場所。
~あとがき~
はる様との企画モノSS第二弾です。
共通コンセプトは「夜」、キーワード「窓」「おにぎり」でコクリコ&花火の話を書いてみよう企画。
キャラ人選はアミダです(笑)
はる様の作品は貴重品保管庫にございます。
共通コンセプト、キーワード、登場人物でこんなに変わるものなんだなぁ、と。
今回は特にそう思いました。
改めて面白かったです(*’ ‘*)
個人的には7本目の巴里SSになります。
まだ7本目…。帝都SSの半分以下ですな(^^;)
もっと頑張らないといけませんね。
時間的には4以降ということになってます。
しかし、アミダで引かなかったらおよそ書かなかったであろうコクリコのお話です。
お勉強させて頂きましたm(_ _)m