『わが命の花よ~マリア篇~』サクラ4ネタ(02/06月作成)


 テラスで独り上空に見事に輝く月を眺めながら、つい先刻までの出来事を反芻する。
 …俺が帝撃総司令。
 正直、実感がない。
 正直、戸惑っている。
 俺たちは、いや少なくとも俺は米田司令があってこその帝撃だと強く思っているからだ。
 その米田司令が退かれ、俺がその位置に就かなければならない。
 俺などではまだまだ米田司令の代わりになんかならないと思う。
 これから俺はどうすればいい?
 どうやって皆を守っていけばいい?
 解らないことは多々ある。
 だが、俺は独りではない。
 皆に支えられている。
 俺も皆を守りたいと思っている。
 何よりも守りたい場所がある。
 誰よりも守りたいひとがいる。
 そして。
 誰よりもそばにいて欲しいひとがいる。

 人の気配がして振り向くと、先ほど携帯キネマトロンで呼び出した彼女が立っていた。
 「すみません、隊長。お待たせ致しました」
 「いや、こちらこそ遅くにすまないね。」
 「いえ。今日の舞台が成功したことが嬉しくて眠れそうにありませんでしたから」
 マリアはそう嬉しそうに笑った。
 「ああ。本当にいい舞台だったよ」
 帝都と巴里、二つの花組が舞台の上でも繋がったあの瞬間。
 俺は声にも出せずに感動してしまって震えが止まらなかったよ。
 「…隊長がいらっしゃるからですよ」
 「え?」
 「隊長が見ていて下さるから、皆舞台に集中出来るんです」
 俺の隣まで歩いてきてマリアが言った。
 「マリア・・・。明日からも頼むよ」
 「はい。お任せ下さい。…ところで、隊長。お話というのは?」
 「ああ」
 頷いた後、マリアの方に向き直るとマリアも姿勢を正して俺の方を見た。
 「先ほど…、米田長官より次期帝撃総司令にとのお話があった」
 「!」
 俺の発言にマリアはパッと顔を上げた。
 「隊長が総司令に…」
 「ああ。花組のリーダーである君には先に伝えておこうと思ってね。何より君は俺のパートナーだからね」
 「…ありがとうございます。」
 「本当は…俺なんかではまだまだだからって断るつもりだったんだ。そうしたら、米田支配人にこう言われたんだ。『最初からうまくいく訳がない。周り振り回してたくさん迷惑かけてやればいい。』ってね」
 「ふふ。支配人らしいですね。でも私もそう思います。それに、弱気なのは隊長に似合いませんよ?」
 「マリア・・・」
 「隊長には私たちが居ます。ですから、隊長はご自分の信じられた通りになさって下さい」
 真っ直ぐに俺の目を見てマリアが言った。
 俺はずっとこのマリアの言葉に支えられて来たんだ。
 この言葉で俺は前だけを向いて行く事が出来た。
 「君なら…そう言ってくれると思ってたんだ、マリア」
 「隊長…」
 「…すまない。試すようなことをして。どうにも戸惑ってしまってね…」
 君にその言葉を言わせるような言い方をしてしまった。
 『自分を信じて前へ行け』と。
 それを自分に言い聞かせる為に。
 「いえ…。隊長が…弱気になられるのが私の前であるのが嬉しいです」
 そう言って微笑んだマリアを本当に愛おしいと思った。
 「…ありがとう、マリア。君が居てよかった」
 君が居てくれるから俺は前に突き進めるよ。
 そして、これからも。
 「そんな改めて止めて下さい、隊長。お互い様じゃないですか」
 頭を下げた俺にマリアが笑って言った。
 「…マリア。もう一つ、君に話があるんだ」
 「?はい」
 「その前に少しの間だけ目を閉じてて欲しいんだけど、いいかな?」
 俺の言葉にマリアは一寸不思議そうな顔をしたが、頷いて目を閉じた。
 俺はマリアが目を閉じたのを確認すると、ズボンのポケットから小さな箱を取り出して蓋を開けた。
 中にはリングが一つ納められている。
 実はこの戦いが終わった後、かえでさんに宝飾店まで付き合ってもらって密かに用意しておいたのだ。
 俺はマリアの左手を取りその薬指にそっとリングを嵌めた。
 「……隊…長…」
 その金属の感触で気付いたのかマリアは驚いたように顔を上げるとそっと目を開けた。
 「これがもう一つの話だよ、マリア」
 そう言って驚いたような顔を隠せずにいるマリアを見つめる。
 「ずっと…俺の隣に居て欲しい。この先ずっとだ。」
 「………本当に…、」
 涙で声を曇らせながらマリアが言う。
 「…私で…よろしいん……です…か…?」
 「俺以上に君を想うヤツがいると思うかい?」
 半ば冗談に半ば本気にそう言うとマリアがクスと笑って首を振った。
 「…いいえ。居ないと思います」
 「だろ?」
 頬に伝うマリアの涙を指で拭い取って、マリアの髪に口付ける。
 「結婚しよう!マリア」
 「…はい」

 そう頬を赤く染めながら頷いてくれた恋人を抱き締めながら、俺は新しい未来を築くべく、新たな出発点に立った。
 だが、何も恐れることはない。
 隣には最愛にして最強にして最弱な俺の大切なひとが居るから。
 だから俺は迷わずに前を突き進んでいくことだろう。

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