『雨が上がるまで』大神×マリア(01/09月作成)


 ザーーーーーッ。
 秋の空は気まぐれだ。
 眩しいほどの青空が広がっていても、数時間後にはいつの間にか曇り空になってしまっていたりする。
 曇っているだけならまだしも、この酷い雨では帝劇に帰るに帰れない。
 雨宿りに慌てて駆け込んだ店の軒先でマリアは思わずため息をついた。
 贔屓にしている作家の新作の発売日だからと本屋に行った帰りにこの様である。
 今日は帝撃の誇る人間気象レーダー・・・カンナに天気を聞くのを忘れてしまったのだ。
 とにかく、マリアにしては珍しく本の事しか頭になかったのである。
 何も手に持っていないのならば、ある程度は雨に打たれても構わないのだが、買ったばかりのこの本を濡らしてしまうのはどうにも忍びない。
 ただただ、この雨が止んでくれるのを待つばかりである。
 ・・・こうして雨が止むのを待ちながら、そういえばこの間もこんな事があったとマリアはふと思い出す。
 ・・・台風の準備のための買い出しをしたときだ。
 あのときは、隊長も一緒に行って下さったんだっけ・・・。
 それで、雨が降ってしまって今みたいに慌てて雨宿りをして。
 それでもなかなか雨が止まなくて、埒が明かないと私が持ってきた傘に二人で入って急いで帝劇に帰ったのよね・・・。
 隊長と相傘。
 あまりに雨と風が強くて、ゆっくりと浸れなかった。
 ただ隊長は私が濡れないように、ご自分はびしょ濡れになりながらも一生懸命守って下さっていた。
 帝劇に着いた時もご自分の方が酷く濡れていたのに真っ先に私を気遣って下さって。
 この時に、やはり自分はこのひとの事が好きだと改めて確認したのだ。
 ・・・と、降り出して数分しても未だに止まないこの雨を見てマリアはそんなことを思う。
 ”隊長のことが好きなのだ”
 改めてそんなことを考えてしまった所為か体温が一気に上昇する。
 誰に見られている訳ではないが何だか妙に恥ずかしくなって、道路の方に目を逸らす。
 と、見慣れた顔がこちらに近付いて来る。
 その人物は徐々に近付いて来て、いよいよマリアの前に立った。
 「マリア!良かった、会えて!」
 「隊長・・・。どうなさったんですか?!」
 あまりにも突然でついそんなことを言ってしまう。
 マリアにしてみればまったく不意をつかれてしまったのだ。
 大神の事を考えていたら大神本人が来るなんて、不意以外の何でもない。
 「ああ、マリアを迎えに来たんだよ。出掛けに傘、持って行かなかったろう?」
 そんなマリアの動揺に気付いているのかいないのか大神が言った。
 「どうして私が傘を持っていないって・・・。」
 出掛けに大神に会わなかった筈なのに何故だろうか。
 誰かに聞いたのだろうか。
 「ああ。マリアが出掛けようとしているときに丁度2階のバルコニーに居てさ。嬉しそうな表情(かお)してるからどこに行くんだろうって思ってたんだ。で、雨が降って来ただろ?そういえば、マリア傘持ってなかったなって思い出してさ。これは出先で困ってるんだろうって、慌てて来た次第さ。」
 傍目に見ても嬉しそうだと判ってしまう顔をしていたのかと、ますますマリアの体温は上がる。
 穴があったら入りたいくらいだ。
 「・・・でも、どうしてここが?」
 出掛けに会わなかったという事はどこに行くかも告げていないのに、どうしてここに居ると判ってしまったのだろう。
 「あ、いや、正直出て来たはいいけど、どこに行ったかも聞いてないしどうしようって思ってたんだ。で、ふと、この間の事を思い出してね。この前の台風の買い出しのときにここで雨宿りしただろ?それを思い出してね。いちかばちか来たら、君が居たんだよ。」
 あまりに大神らしい答えに思わず笑みが零れる。
 「ふふっ、私がここに居なかったらどうするおつもりだったんです?」
 「だって、マリアはここに居ただろ?」
 確信を持っているかのように自信あり気にそう笑った大神の顔に思わず見とれてしまう。
 「・・・そうですね。」
 「・・・ところで、マリア。」
 少し言いにくそうに大神が言う。
 「迎えに来たはいいんだけどさ、慌ててた所為で傘をこの1本しか持ってきてないんだ。だから、その、相傘でもいいかな?」
 真剣な顔で言うから何かを言うかと思ったら、そんなことで。
 何かとりあえず”傘”を手に外に出ることしか頭になかった大神の姿を想像したら可笑しくなってきてマリアは笑った。
 「ふふっ。」
 「?何を笑ってるんだい?」
 「いえ、すみません。あまりに隊長らしかったので、つい。」
 「ひどいよ、マリア。俺だって忘れたくて忘れた訳じゃないんだから。」
 「解ってますよ。相傘もいいですが・・・隊長。」
 「うん?」
 「公演まではまだ時間がありますし・・・雨がもう少し落ち着くまでお茶でも飲んで行きませんか?」
 今はまだまだ戦いの最中で。
 二人っきりになれることは滅多にないのだから。
 せめて。
 「・・・そうだね。」
 雨が上がるまでは恋人気分でいさせて欲しい。
 そう天に祈るマリアだった・・・。
 こんな事があるのだったら、気まぐれな天気も悪くないと思ったある秋の日。

 そして・・・、
 「・・・マリア。」
 コーヒーを一口飲んでから大神が改まって言う。
 「?はい。」
 「傘・・・なんだけどさ。」
 「そのことでしたら、先ほど・・・。」
 「いや、そうじゃなくてね。実は、わざと1本しか持ってこなかったんだよ。」
 「え?」
 「マリアと相傘したくてね。」
 そう言って大神はいたずらっぽく笑った。
 直後、マリアの顔が紅潮したのは言うまでもない。 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です