『光の優先権~If…~』大マリ前提 全キャラ(01/06月作成)

※SS『8時間後の贈り物』の後日談。


 朝からマリア以外の面々が慌ただしく帝劇内を走り回っている。
 今日は6月19日。
 マリアの誕生日だ。
 いつも自分たちのことを考えてくれるマリアに精一杯のことをしたい。
 それぞれが日頃の感謝を込めて出来るだけのことをしたい。
 そんな訳で、マリアの誕生日会をすべく皆で動き回っているのだ。
 朝からの準備の甲斐あって楽屋はアイリスとレニによって綺麗に飾り付けられている。
 カンナによって倉庫から運ばれたテーブルの上にはさくらとかすみによる料理が並べられていく。
 そこに織姫とすみれが綺麗に食器やグラスを置いていく。(置く位置で2,3悶着はあったようだが。)
 由里と椿がお菓子などの買い出し部隊だ。
 紅蘭は・・・自室にこもって何かを準備しているようだった。
 とにかく帝撃総出でマリアの誕生日を祝おうという態勢だ。
 ちなみに帝劇を完全に休業にするわけにはいかないので、お昼までということで受付にはかえでさんが。
 そして、売店には米田支配人が無理矢理座らされていた(笑)
 昨晩(今日未明と言った方がいいのか)カンナがうっかり口を滑らせた所為で、マリアは皆が何をやっているか解っていたがあえて知らない振りをした。
 皆の気持ちを無にしたくなかったし、何より真っ先にカンナに疑いの目がかかるからだ。
 朝方、アイリスが部屋に来て自分がいいと言うまでは二階にずっといて欲しいというので、何も聞かずにただ頷いた。
 しかし、これだけバタバタと騒いでいるのに気付かれないようにとは無理な話なのではないだろうか。
 でもそんなところが花組らしいのだ。
 思わず笑いが零れる。
 改めて、昨夜カンナから手渡された大神からの手紙を読み返す。
 大神は巴里でも元気にやっているだろうか。
 米田に聞いた話では欧州防衛構想の一環として新たに創設された”巴里華撃団”の隊長に就任したとのことだった。
 彼ほど優秀な人物であれば、今度もきっとうまく統率していくことだろう。
 何より彼は指揮官として優秀なだけではなく、優しさと強い意志も兼ね備えているのだ。
 きっとその優しさに惹かれる者がいることだろう。
 その意志に動かされる者もいることだろう。
 彼は”自分が在る場処”を教えてくれるひとだから。
 だからこそ、米田からこの話を聞いたとき不安がないわけではなかった。
 自分が在る場処はここだが、大神が在る場処は果たしてここなのか急に不安になった。
 離れていることがこんなに辛いことだと思い知らされた。
 離れているだけでいろいろなことを考えてしまう。
 大神の気持ちが変わってしまったとしても仕方がないのだ。
 それでも自分には大神しかいないのだが。
 そんな考えを一蹴してくれたのが、この手紙だった。
 薬指で光っているリングを見つめながら、大神のことを想う。
 「・・・隊長、ありがとうございます・・・」
 思わずそう呟く。
 ・・・と、ノックの音がしてアイリスの声がした。
 「マーリーアー、ちょっと来て欲しいところがあるんだけど」
 ドアを開けると満面の笑顔を湛えたアイリスが立っている。
 「・・・え?」
 ここで素直について行っても不自然だ。
 あまりわざとらしくならないようにマリアは聞いた。
 「いいから、いいから。アイリスについて来てよ」
 そんなマリアの態度に気付いてない様子でアイリスは待ちきれないと言わんばかりにマリアの手を引っ張って、階段を下りていく。
 「みんなーー、マリア連れて来たよーー!!」
 楽屋の前に立つとアイリスは中に声を掛けてから、勢いよくドアを開けた。
 「さ、マリア入って入って~」
 アイリスに促されマリアがそこに一歩足を踏み入れると、
 『パン、パン、パパーン!!』
 一斉に紅蘭特製と思われるごく普通のクラッカーを皆が鳴らす。
 「せーの・・・」
 アイリスが合図を取り、そして、
 「「「マリア(さん、はん、さーん)、お誕生日おめでとう!!」」」
 皆が声を揃える。
 「・・・あ、ありがとう・・・」
 誕生日会云々のことは解っていたとはいえ、こうして皆に祝って貰うのは何て嬉しいんだろうか。
 本当にここに、帝撃に来てよかったとマリアは改めて思った。
 「ね、ね、マリア嬉しい?」
 「ええ・・・。みんな本当にありがとう」
 マリアの言葉にアイリスがレニと顔を見合わせてにっこりと笑った。
 皆もそれを見て笑っている。
 「マリアの誕生日会の用意をするからってよ、俺も売店に駆り出されちまったぜ」
 米田が豪快に笑いながら言った。
 「す、すみません。支配人」
 米田が売店にいたとは・・・。
 客が少し気の毒に思えたマリアであったが、自分の為だったということを考えると何とも言えなかった。
 「なーに、いいってことよ。可愛い娘の為だからなぁ。じゃ、改めて乾杯といくかぁ?!」
 上機嫌に杯を掲げた米田を隣に座っているかえでがつつく。
 「支配人、その前に、」
 「おお、そうだった。そうだった。酔っぱらう前に言っちまわねぇとな」
 米田とかえでの言動に何事かと全員の視線が米田に集まる。
 「あー、ごほんっ、突然ではあるがお前たちに巴里に行って貰うことになった」
 一瞬、何事かと部屋が静まりかえる。
 が、次の瞬間には感激と驚きの声が入り交じった。
 「本当ですか?!」
 さくらの問いにかえでが答える。
 「ええ。巴里華撃団から要請があったの。一足先に加山くんに巴里に向かって貰ったわ」
 かえでのその言葉に部屋中が歓喜の声に包まれる。
 「大神さんに会えるんですね!」
 「中尉さんに会えまーす!」
 「わーい、お兄ちゃんに会えるんだー!嬉しいね、レニ!」
 「うん・・・」
 「私が巴里に参りましたら中尉ったらきっと、ほほほ・・・嬉し泣きですわ」
 「よっしゃ、巴里に何持っていこかー。あれも見せたいし、あれも大神はんに試してもらわんと・・・」
 皆、思い思いに喜んでいる。
 ふと、カンナがマリアの肩をポンとたたいて言った。
 「よかったな、マリア」
 そうウィンクして見せるカンナにマリアも自然と笑みが零れる。
 「ええ」
 また、喜ぶ花組とは対照的に静かにため息を漏らす者もいる。
 「あーあ、どうせあたしたちはお留守番なんですよね」
 「だって、私たちはここを留守に出来ないでしょう?」
 「ああ、でもやっぱり羨ましいですよねっ。由里さん」
 「そうよねっ、椿」
 そう昨年の夏の旅行に続いてまたもや帝劇で留守番の三人娘だ。
 そんな三人娘を宥めるようにかえでが言う。
 「あら、私も留守番よ。それに、花組だって全員で行くわけじゃないわ」
 「そうなんですか?」
 初耳だと言わんばかりにさくらが問う。
 「ええ。さすがにここを手薄には出来ないでしょ?だから、3組に分かれて行って貰うことにしたの」
 「それはどうやって決めるの?」
 アイリスが聞くと、かえでは意味深に笑って言った。
 「い・つ・も・のあれに決まってるじゃない」
 「イツモノアレ?」
 かえでの言葉に織姫を始め、皆が一瞬考える。
 ・・・と、紅蘭が何かに気付いたように紙と鉛筆を持って来て、テーブルの上に置いた。
 「これ、やろ?」
 「正解よ、紅蘭。」
 テーブルの上に置かれたそれを見て、皆もさすがに気付く。
 「これっ・・・って、アミダで決めるんですか?!」
 「そうよ。これがいちばん後腐れがないし、効率よく決まるもの」
「後腐れがないって・・・ま、その通りなんだけどさ」
 全てが自身の運任せなのだから、当然文句は言えない。
 方法としては適していると言えるだろう。
 「・・・確かに効率はいい。」
 「よっしゃ、ほな行くでー。」
 皆の賛同を得られたことを確認した紅蘭が縦に8本の線を引き、一人ずつに横線を加えていって貰った。
 そこにかえでが皆の目に触れぬように3:3:2の割合で三種類のマークを記した。
 「順番はそうね・・・。じゃあ、今日が誕生日ということでマリアから引いて貰うわ。みんないい?」
 かえでの案に皆が頷いて、マリアは適当に自分の名前を記した。
 その後はじゃんけんで勝ち抜いた者が順に名前を記していき、いよいよ結果を待つのみとなった。
 「さて、じゃあ行くわよ・・・」
 皆が固唾を飲み込んでかえでの指の先を見守る。
 「えぇ・・・っと、マリア、紅蘭・・・カンナが一緒で、レニ・・・と織姫ね。それから・・・アイリス、さくら・・・すみれ、と。これで組分けは出来たわね。じゃあ、行く順番は組の代表同士によるじゃんけんで決めてね」
 かえではそう言うと席についた。
 この言葉に皆の目つきが変わる。
 戦闘時の目つきそのものだ。
 直ちに決まったばかりの組同士に分かれて作戦会議と相成る。
 先ずはマリア・紅蘭・カンナ組。
 ここは冷静でさえあれば最も強いとも言える。
 「絶対すみれだけには負けらんねぇ」
 「・・・大丈夫や。すみれはんは癖があるから最初に出す手は決まってるんや。問題は誰が代表で出て来るか、やね。うちの予想ではアイリスなんやけど、マリアはんはどない思う?」
 「そうね。私もそうだと思うわ。すみれもそうだけど、さくらにも少し癖があるから代表は恐らくアイリスね。でも、いちばん手強いのはレニだと思う。こちらの先を先を読んで来ると思うから」
 「ああ、確かにレニは手強そうだな。何か見透かされちまってるようで手を出し辛そうだぜ」
 「レニは確かに手強そうやな。でも、じゃんけんのパターンだって数に限りがある。どうにかなるなるて」
 「じゃあ、紅蘭。あなたに任せたわ」
 「よっしゃ、任せとき!」
 そして、”元星組”の二人。
 上が本命とすればこちらは対抗とも言える。
 「ふふーん、元星組の実力を見せてあげるでーす」
 「・・・負けられないね」
 「当然でーす。中尉さんに最初に会うのは私たちなのでーす」
 「・・・それでどうするの。ボクが出るの?」
 「ここはわたしがいくでーす!レニはビッグボートに乗ったつもりでいるといいでーす」
 「・・・・・・了解」
 最後はダークホースとも言っていいさくら・すみれ・アイリス組だ。
 「カンナさんだけには負けられませんわ。」
 「アイリスたちが一番にお兄ちゃんに会いに行くんだからー」
 「そうよ。絶対に勝たなくちゃね。大神さん、見守っていて下さいね・・・」
 「ちょっと、さくらさん。中尉はあなただけを応援しているとは限りませんことよ」
 「そうだよ、さくら。お兄ちゃんはアイリスの応援してくれてるんだから」
 「・・・そんなに言わなくても。それで、どうしましょうか?」
 「うん。ここはアイリスがいくよ!アイリス、じゃんけん強いんだよ?」
 「さすがはお子さま・・・もがっ(ちょっと、さくらさん何をなさいますの?!)」
 「(余計なこと言わないで下さいよ、すみれさん。もしアイリスが怒りでもしたらどうするんです?)」
 「(そ、そうですわね・・・。)」
 「ちょっとー、二人で何こそこそ話してるのぉ?」
 「何でもないわ。アイリス頑張ってね」
 「そうそう。頑張って下さいましね」
 かくして各組の代表が出揃った。
 紅蘭、織姫、アイリスによる代表じゃんけんバトルだ。
 皆が見守る中、”巴里行一番乗り争奪戦”が始まった。
 「ほな、行っくで~。お二人はん、準備はよろしおすか?」
 「いつでもいいよ」
 「どんと来いでーす。」
 「よっしゃ!せーの、最初はグー!」
 「じゃんけんぽーん!」
 「・・・・・・・・・。」
 紅蘭はグー、アイリスも同じくグーを。
 そして、織姫一人がチョキを出している。
 瞬間。
 織姫・レニ組の巴里行最終出発組が決定した。
 「オー、何てことですかー!納得いきませーん!」
 心底悔しがる織姫。
 「・・・織姫。その前に・・・」
 どうやら少し怒っているらしいレニ。
 「・・・ご、ごめんなさーい」
 これにはさすがの織姫も居直るわけにはいかず素直に謝った。
 「泣いても笑ってもこれで決まりや。勝負や、アイリス!」
 「うん!アイリス負けないんだから!」
 「最初はグー!」
 「じゃんけんぽん。」
 「あいこでしょ!」
 「あいこでしょ!」
 両者譲らず、緊迫した空気が辺りに漂う。
 「これで最後や!」
 「うん!いくよ!」
 「じゃんけんぽん!!」
 紅蘭はパー。
 アイリスはチョキだ。
 この瞬間、さくら・すみれ・アイリス組の勝利が決定した。
 「わーい!アイリスたち一番乗りだねっっ」
 「偉いですわよ、アイリス。天晴れ、ですわっ。」
 「アイリス、あたし信じてたわっ。」
 勝った組は喜色満面だ。
 負けた組も大神に会えない訳ではないので、そんなに落ち込んではいないのだが早くに会えないというのはやはり大きいらしく多少がっかりしている。
 「ああ、パーで負けるやなんて屈辱的過ぎや~」
 そう、がっくりと肩を落とす紅蘭。
 「ま、紅蘭はよくやったって」
 「そうよ。それに隊長に会えない訳じゃないんだから」
 紅蘭の健闘を称えるカンナとマリア。
 「せやな」
 かくして”巴里行一番乗り争奪戦”はアイリスの見事な勝利によって幕を閉じ、巴里行の順番も無事決定した。
 そして、この騒ぎで一時は忘れかけられていたであろうイベントが再開された。
 「それじゃ、マリア。お誕生日おめでとう。乾杯!」
 待ちくたびれて酔っぱらってしまった米田に代わってかえでが乾杯の音頭を取る。
 「乾杯~!」
 皆のグラスが一斉にぶつかって賑やかな音が楽屋に響く。
 これを合図にパーティが始まった。
 話題はすっかり巴里のことである。
 皆が皆、大神に会えるのが嬉しくて仕方がないという表情で話している。
 ここ最近で一番の笑顔だとそんな皆の様子を見ながらマリアは思った。
 でも、やはり自分も嬉しい。
 きっと自分も皆と同じような顔をしているのだろうと思う。
 「マリア」
 そんなマリアにかえでがグラスを持って近付いてきた。
 「かえでさ。」
 「良かったわね、マリア。大神くんに会えるわね」
 「かえでさん。か、からかわないで下さい」
 「あら、嬉しいときは嬉しいって言いなさい?」
 「正直やっぱり、その・・・嬉しいです」
 かえでの言葉に顔を真っ赤にしてマリアが言う。
 そんなマリアを優しそうな瞳で見つめながら、かえでがにっこりと笑った。
 「そうそう。それでいいの」
 「はい・・・」
 ・・・こうして、遙か巴里に向けて光は放たれた。
 オチとしては弱いけれど今回はこの辺でということで・・・。

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